うんざりするほどの少年ホールデンくんのこと『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』村上春樹/柴田元幸

翻訳

シリーズ第2弾ということになるのだけれど、今回は前回『翻訳夜話』とは全然様子が違う。 いわゆる翻訳をするときのあれこれ、ではなく、 特定の作家(J.D.サリンジャー)の特定の小説(The Catcher in the Rye)の翻訳について、二人の翻訳者が語っている。 一冊の本を訳す過程で、本が一冊できてしまうのだ。 『The Catcher in the Rye』という小説がいかに難解で、つっこ…続きを読む

自分が何者かわからなくなったら、ここに一つの答えがある『教団X』中村文則

教団X

自分とは何か、 善悪とは何か、 神とは、運命とは。 生きていれば、わたしたちの「意識」は疑問を抱き、悩み、信じる。 では「意識」とは何か? かつて自分のもとを去った女性の居場所を追ううちにたどり着いた奇妙な宗教団体。 その教祖である松尾は、ブッダや量子力学の話を通じて、人間存在を説いている。 それは感謝哲学などのように押し付けがましくもなく、一方でただの科学講義でもない。 二つを分けて考えることが…続きを読む

わたしたち大人は、子どもたちのイノセンスに救われている『誕生日の子どもたち』トルーマン・カポーティ

誕生日の子どもたち

子どもという存在は、掴みどころがない。 純真無垢であどけないところがあると思ったら、 動物的で衝動的な発言をする。 一方で、実に計算高く大人を欺いたりもする。 しかし、やはり彼らから見た世界は特別な輝きを放っている。 それはイノセントの発する透明な光であるのだろう。 トルーマン・カポーティは、そんなイノセントをいびつに抱えたまま大人になった人物とも言える。 両親の愛情が欠落した環境で育った彼の作品…続きを読む

『羊をめぐる冒険』村上春樹

羊をめぐる冒険

自分が好きな作家の初期の頃の作品を読むという行為には、様々な側面があるように思う。 前に自分がそれを読んだころの印象をアップデートしていくこと、 その頃の自分自身を思い出しながら、今と比べてみること、 作家がそれを書いた年齢と自分の今を照らし合わせてみること、 作家自身の変化を改めて感じること、 真新しい本として、新鮮な読書を楽しむこと。 特に村上春樹という作家の場合、読みたびに受ける印象ががらり…続きを読む

これはぜんぜん青春小説なんかじゃない『ホテル・ニューハンプシャー』ジョン・アーヴィング

ホテル・ニューハンプシャー

レモンライムを絞ってソーダ水で割り、シロップを入れた飲み物的な青春小説をお望みなら、この本はあまりおすすめできない。 あるいは、屋根裏でろうそくを灯し、クリスマスまで指折り数えるような澄んだ少年の心をお望みなら。 ジョン・アーヴィングといえば、言わずと知れた現代アメリカ文学の巨匠。 少し無骨な書き方をするような印象があり、『熊を放つ』と同様、物語の世界に入り込むまでに少し時間がかかる。 実際、最初…続きを読む