世間の流れと自分の信念との狭間で『浮世の画家』カズオ・イシグロ

浮世の画家

カズオ・イシグロの二作目。 先日お伝えした『日の名残り』の前作ということになる。 実は彼のデビュー作をまだ読んだことがないのだけれど、これまで読んだのは『日の名残り』、『わたしを離さないで』、『忘れられた巨人』の三作。 個人的に一番好きなのは『わたしを離さないで』かな、今のところ。 二作目の本作は、次の『日の名残り』に通ずるような、主人公の「語り」と過去への想いが特徴になる。 時は戦後の日本。 戦…続きを読む

からつゆに実るいんげん豆は胡麻和えで

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「からつゆ」という言葉を、今日はじめて知った。 雨が降らない梅雨だということだそうです。 先週、関西が梅雨入りしたというニュースを聞いた。たしかにあれから、雨が降っていないような気がする。 雨が降らない梅雨の、どこがいけないのか? それはたぶん、農家がいちばん真剣に語ってくれると思う。 たとえば稲。 5月に植えた稲は、6月の雨でぐんと強くなる。 それから、溶けるような7月と8月を超えて、10月に黄…続きを読む

本当に本当の恋っていうのは『恋しくて』村上春樹

恋しくて

恋しくて 恋しくて 恋しくて 誰かが恋しくてたまらない。 それだけ聞くと、高校生の淡い恋や、結ばれない運命の二人の恋のように聞こえる。 しかし、それが燃え上がるようなものであろうとなかろうと、恋にはパターン化・言語化することのできないそれぞれ固有の色があるようだ。 この本の中に紹介されている恋の中に、誰にでもひとつくらいは自分にしっくり来るようなラブ・ストーリーがあるかもしれない。 大人にも子ども…続きを読む

ユートピアなのか、ディストピアなのか『太陽・惑星』上田岳弘

太陽・惑星

わたしたちは過去の歴史を学び、今を生き、そして未来を夢想する。 それは、人間にとって時間軸が不可逆的に、一本だけ存在しているから。 時間はそのほかの資源と同様に有限であり、人生は一度きりだ。 人の欲は尽きず、人間は永遠の生を手に入れるために研究を惜しまず、そして一人の例外もなく死んでいった。 永遠の生を手に入れるために存在する人生に、意味などあるのか? それでは、どのような目的のために存在する人生…続きを読む

これ以上の海外文学は正直言って今のところ。『フラニーとズーイ』J.D.サリンジャー

フラニーとズーイ

J.D.サリンジャーと言えば『キャッチャー・イン・ザ・ライ』(ライ麦畑でつかまえて)を思い浮かべる人も多いだろうけれど、わたしとしては何と言っても『フラニーとズーイ』である。 これ以上の海外文学は、正直言って今のところ見つけられていない。 例えば、「これから先の人生、きっかり三冊しか読んではいけません」なんて理不尽なことを誰かに要求されたりすると、まず間違いなくこの本をその中に含めると思う。 生ま…続きを読む