長編小説

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(エピローグ)一通の手紙と最高の復讐【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  それからちょうど二週間後、橙子のもとに一冊の本が届いた。ぐしゃぐしゃになった茶封筒に、丁寧にテープで糊付けされているのが不釣り合いな包みだった。差出人の名前はなく、本は古本だった。題名は『Living Well is the Best Revenge 優雅な生活が最高の復讐である』。題名を見た瞬間、橙子はぎく […]

(エピローグ)嬉しさに打ち震える黒い血液【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  秋の始まりは、橙子にとっていつも特別だった。凜花がいなくなってから三年と八ヶ月が経過した。お盆休みが明けると、朝夕に心地よい風が吹きはじめるようになる。からだは秋の到来を真っ先に察知し、途端に昼の暑さへの適応力を失くしてしまう。昼間にはまだまだ夏の太陽が残り、じりじりと地球の表面を焼き続けているというのに。そ […]

(B5-6)随分遠いところまできてしまった【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  孝太郎が食事を終えるまで洗濯ものを畳んだり、テレビを見たりしながら待つのが日課だった。テレビというのはすごい、と橙子は思っていた。座って見ているだけで、実に多くの情報を見る者に与えてくれる。橙子は毎日のこの習慣のおかげで、世間の人よりも随分と物知りになったような気がしていた。とは言っても、橙子が家事をこなすあ […]

(B5-5)もうひとつの世界【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  気が付くと、橙子はまた台所に戻っていた。誰が生けたのだろう、食卓の上に花が飾ってある。薄い紫色の花が一本だけ。百合子ならもっと派手で豪華に生けるはずだ。それに、紫は椿の嫌いな色ではなかったか。  かちゃ。何かのネジが外れるような、プラスチックでできたティーカップのぶつかるような、小人の通る扉が開くような、そん […]

(B5-4)その目はなにも見てはいなかった【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  部屋の中が急に静かになる。家族みんなで座ると狭苦しい食卓も、一人では持て余してしまう。こつ、こつ、こつ。いつもは気にならない時計の音がやけに大きく響いていた。春の冷たい雨が家の屋根、壁を打ち付けては流れていく。こんなにも水の勢いは激しいのに、橙子の心の中に留まったままの石油のような黒いどろどろは一向に流れ行く […]

(B5-3)息子との対話その2【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  「母さんさ」剛志が空になった皿の上にかちん、と軽く音を鳴らして箸を載せた。  「母さん、俺が小学校の時にいじめられてたの、気づいてた?」まるでたばこでも勧めるかのように、さらりと剛志が言った。  「剛志が? いじめられていた? 小学校の時に?」橙子は、息子による本日二度目の突然のカミングアウトに、ただ言葉を繰 […]

(B5-2)息子との対話その1【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  「母さん、白飯はどうする?」  「夕方に軽く食べたからやめておくわ」  「あと半膳だけ微妙に残るんだけど」  「剛志食べちゃってよ」  「俺最近太って来たんだけどな。まあいいよ」普段孝太郎とほとんど言葉を交わさないせいか、剛志がやけに饒舌に感じられる。  「タンドリーチキン、すっかり上手くなったね。これ凜花の […]

(B5-1)余暇的部分に成り立つ仕事【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  自宅の最寄り駅を上がると、ぽつぽつと雨が降り始めていた。どうりで地下鉄の中が独特の湿気に満たされていたわけだ、と橙子は合点する。自転車で飛ばせば大して濡れることもないだろう。息を切らせながら家に帰ると、孝太郎が知らん顔で先にビールの缶を開けていた。橙子が帰宅したことに努めて気づかないふりをしているようにさえ見 […]

(A5’-5)新しい何かが始まる予感【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  「自分らしさの話ですけど」橙子が思い出したように呟いた。途端、室田と凜花が橙子のほうへ顔を向け、月を映す鏡が六つから二つになる。  「こんなふうに、太陽と月の流れとか、季節の巡りに肉体と精神をちゃんと寄り添わせて生きること。それが私の思う自分らしさかな」  「橙子、あなた今のシチュエーションでそういう答えはず […]

(A5’-4)明けたかと思う夜長の月明かり【長編小説】『少女が大人になるその時』

少女が大人になるその時

▼概要・目次はこちらをご覧ください▼ 【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次  実は三ヶ月ほど前、橙子の会社はとある大手の広告代理店から打診を受けていた。政府の方針によって女性の雇用を急ぐ企業から、女性に向けた採用広告を制作する依頼が殺到しているのだそうだ。そこで、その会社は実際にタレントから一般人まで幅広い肩書きや経歴を持った女性を一週間ほど企業に派遣して、その社風や働きやすさ、やりが […]

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