2020年8月6日 / 最終更新日 : 2020年8月6日 ちひろ 読書感想文 個性は誤差範囲でしかない『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』村上春樹 わたしたちは、ヒトとヒト同士として決定的に違っている。決定的に、徹底的に。 それは孤独という痛みを我々に与えながら、多様性という救いを与える。 なぜなら、多様性にこそ愛が生まれるからだ。 『世界の終りとハードボイルド・ワ […]
2020年6月4日 / 最終更新日 : 2020年6月3日 ちひろ 読書感想文 大人たちはさ、って思ったら“The Little Prince” Antoine de Saint-Exupery フランス語ができたらと思った。なぜならこの物語は、フランス語で語られ、フランス語で読まれるべきものだから。 日本語でも、英語でも、このお話の本当のところはたぶん十分に伝わらない。小さな星の小さな王子さまから見える世界は、 […]
2020年6月2日 / 最終更新日 : 2020年6月2日 ちひろ 読書感想文 みんな揃って批評家気取りなのだろうか『遠い太鼓』村上春樹 今の我々にとって、ほとんどの外国というのは、少なくともその都市部においては遠い存在ではない。 トラベラーズ・チェックはクレジットカードに、販売窓口で言い値のままに買うしかなかった航空券は冷酷なまでの比較サイトに、悲しいコ […]
2020年5月2日 / 最終更新日 : 2020年5月1日 ちひろ 読書感想文 周りは敵ばかり?『ほんとうの味方のつくりかた』松浦弥太郎 あなたには「味方」がいますか? それは他人だけではなくて、自分の中にもいるもの。 そして、無条件にではなく、自分が徹底的に相手、もしくは自分の中の自分の味方になることではじめてその存在に気づくもの。 松浦弥太郎さんの生き […]
2020年4月2日 / 最終更新日 : 2020年4月2日 ちひろ 読書感想文 詩的に人を殺めることだってできる『犬の人生』マーク・ストランド 詩というものを理解できたためしがない。 それはたぶん、詩というものを理解なんてしようとしていたからなのだ。 マーク・ストランド、初めて聞く詩人である彼の初めての短編集を読んで、やっとわたしは詩なるものと和解することができ […]
2020年2月11日 / 最終更新日 : 2020年2月8日 ちひろ 読書感想文 論理的であることをまず捨てなくてはいけない‘Nine Stories’ J. D. Salinger 寡作の伝説的作家といえば、もちろんJ. D.サリンジャーだ。 あまりにも有名な『キャッチャー・イン・ザ・ライ』はもちろん、アメリカにおけるキリスト教解釈を示したともいえる『フラニーとズーイ』も多くの人に愛されている。 本 […]
2020年2月9日 / 最終更新日 : 2020年2月8日 ちひろ 読書感想文 理解しない本読み ‘what we talk about when we talk about love’ RAYMOND CARVER 読書をする。 ああ、いい本だなと思う。 なぜいい本なのか?ストーリーの筋立てが秀逸だから?表現が巧みだから?わたしたちが普段言葉にできない深い感情を言葉にしてくれているから? レイモンド・カーヴァーを原文で読むということ […]
2020年2月8日 / 最終更新日 : 2020年2月8日 ちひろ 読書感想文 なぜ宇宙はこうであるか『ホーキング、宇宙を語る』スティーヴン・W・ホーキング 安定した世の中と引き換えに人々は仕事を分業するようになった。 人々の専門性が増し、専門領域外にいる残りの人間からは、当該分野で発生していることを正確に把握することが難しくなった。 科学者が即ち哲学者を意味した時代は終わり […]
2020年1月11日 / 最終更新日 : 2019年12月29日 ちひろ 読書感想文 なりたいものに何だってなれるなんていうのはね[言葉の切れ端074] なりたいものに何だってなれるなんていうのは、ありふれたものになりたい人間の自慰的発想以外のなにものでもないわ。 医者、弁護士、学校の先生、考古学者。 ちょっとばかし才能があれば、プロ野球選手、F1レーサー、ハリウッド女優 […]
2020年1月9日 / 最終更新日 : 2020年1月8日 ちひろ 読書感想文 風変わりでなみはずれた一族『塵よりよみがえり』レイ・ブラッドベリ 作者がひいきにする登場人物たちというのがときどき存在する。 本書に登場する「エリオット一族」は作家に愛された人々だ。彼らは人間ではないけれど、みずみずしい永遠の生命を持ちながら同時に死ととても近いところにいる。 相反する […]
2020年1月8日 / 最終更新日 : 2020年3月22日 ちひろ 読書感想文 あまのじゃく女[言葉の切れ端073] あなたは永遠に正解にたどりつけない。 だって私はあなたがしてくれることを、ことごとく不正解にしているから。 ねえ、どうか怒らないでね。 私あなたに愛されたいのよ。 唯一の正解は、なるべく腹を立てずに最後まで正解を目指すこ […]
2020年1月4日 / 最終更新日 : 2020年1月4日 ちひろ 読書感想文 かくも理想的なディストピア『華氏451度』レイ・ブラッドベリ ディストピア。 われわれはその響きにあこがれる。起こりうるかも知れない、けれど決して起こるはずはないとどこかでわかっている恐ろしい未来予想図。 『一九八四年』、あるいは『すばらしい新世界』はわたしたちにとってそのような存 […]
2019年12月31日 / 最終更新日 : 2019年12月30日 ちひろ 読書感想文 競争から距離を置く勇気と覚悟のこと『古くてあたらしい仕事』島田潤一郎 世界はよくなっているのか、悪くなっているのか? このように問われたら、このところのわたしの答えは後者だ。 皆が汗水たらして進めている世界は、悪くなっている。だからわたしは怒っていた。そして自分の無力にもっと怒っていた。 […]
2019年12月29日 / 最終更新日 : 2019年12月29日 ちひろ 読書感想文 白昼夢の冒険に似た『猫のパジャマ』レイ・ブラッドベリ 生涯現役で活動し続けたいだろうか。 それともさっさとアーリーリタイアして隠居したいだろうか。 レイ・ブラッドベリは間違いなく前者の人である。 『猫のパジャマ』という可愛らしい題を冠した本書は、レイ・ブラッドベリが83歳の […]
2019年12月10日 / 最終更新日 : 2019年12月10日 ちひろ 読書感想文 魔法が解ける瞬間とほんとうのこと『たんぽぽのお酒』レイ・ブラッドベリ たんぽぽのお酒。 ダンデライオン・ワイン。 その響きはわたしたちに、あたたかな初夏の風を思わせる。黄金色をしたそのライオンは、喉をとおるときにひとつ前の夏を思い出させてくれる。 自然がまだなんとか人々の傍にあったころの暗 […]
2019年12月4日 / 最終更新日 : 2019年12月3日 ちひろ 読書感想文 閉ざされた孤独のイメージ『夜の樹』トルーマン・カポーティ ”アンファン・テリブル”(恐るべき子ども)―これがトルーマン・カポーティがアメリカ文学界に迎えられたときの異名である。 『夜の樹』は九篇からなる短編集で、背筋がつめたくなるようなものから(「ミリアム」「夢を売る女」)、完 […]
2019年12月1日 / 最終更新日 : 2019年11月28日 ちひろ 読書感想文 生を授かったことそのものに対する根源的な怒り。『キュー』上田岳弘 四作目あたりから、上田さんの作品はとても親切になった。 なんの断りも忠告もなしに一気にわたしたちを目的地にぶっ飛ばしてしまうような書き方は、たぶん三作目で終わった。 事前に地図を配布し、おまけに目的地まで手を引いて誘導し […]
2019年11月29日 / 最終更新日 : 2019年11月27日 ちひろ 読書感想文 太ったおばさんのために靴を磨く『Franny and Zooey』J.D.Salinger レベルの低い演劇聴衆にうんざりしていて、エゴのかたまりみたいな教授にうんざりしていて、都会インテリっ子のボーイフレンドにうんざりしていて、宗教に傾倒した末っ子女の子フラニー。 彼女の5つ上の兄ズーイ(きょうだいが多いから […]
2019年11月28日 / 最終更新日 : 2019年11月27日 ちひろ 読書感想文 喪失のあとに続くもの『号泣する準備はできていた』江國香織 ready to burst into tears. 号泣する準備はできていた。 江國さんの作品には、不思議な日本語が多い。その理由を彼女自身が、あるインタビュー記事でこう語っている。 私の場合は、外にある言葉であること […]
2019年11月22日 / 最終更新日 : 2019年11月21日 ちひろ 読書感想文 孤独な衛星としてのわたしたち『スプートニクの恋人』村上春樹 われわれはいくつもに分断されている。 性欲を感じながら、恋をしながら、誰かを必要としながら、その対象がみんな違っていることだってある。 自分自身でさえも、自分自身から切り離されている。 それは、いつか打ち上げられたまま戻 […]