そうすれば、私は優しい人間になれるの。[言葉の切れ端005]

「愛する人に腹が立ったり、理不尽なほど求めてしまう自分がすっかり嫌になったらね」彼女は僕のへそをいじくりながら言った。

「ほんの少しだけ悪いことをするのよ。
彼の好きなアイスクリームをこっそり食べてしまうとか、電気シェーバーの充電をすっかり空にしてしまうとか、あるいは適当な男性とお日様のあるうちに寝るとかね。
いまあなたとそうしているように」

「僕は君にとってのアイスクリームであり、電気シェーバーであるということ?」
僕は彼女が夫のいないあいだに明治のスーパカップをもそもそと食べる姿を想像したが、それはあまり幸福な光景とは言えなかった。

「本質的にはね」彼女は僕の頬を撫ぜた。
「大切なのは、彼の悪と自分の悪の重さを同じにするということなの」
「するとどうなる?」

「私はうんと心が広くて、優しい人間になれるの」

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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