兄さんに渡したもの。[言葉の切れ端006]

「革命だよエヴァ」と兄さんは言った。
「革命には、起こるべき時期というものがある。その対象や場所、方法はさしたる問題ではない。正しい時期さえ見逃さなければ、そいつはちゃんと起こるんだよ」
その時の兄さんの目は、いつもの兄さんではなかった。
でも私は、すべてを受け入れて小さく肯き、迷いなく自分の左目をくり抜いて兄さんに渡した。
兄さんは愛おしそうに私を撫ぜた。
「ありがとうエヴァ。これで革命は正しく終わる」
私はできるだけ嬉しそうに見えるよう、痛みをこらえて肯いた。
もう声は渡してしまったあとだったから、言葉はなかった。
それが私たちの愛のかたちだった。
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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