そして空には雲ひとつない。[言葉の切れ端008]

「そして空には雲ひとつない」
妻はうれしそうに言った。

そのときのぼくらは、何を見ても美しく、何を聞いても祝福なのだった。

妻がいつも見せる薄い微笑みは、その時にはじける光の種子となった。

ああ、この人はこんなふうに笑うのだった、とぼくは思い出すように過去をめくった。

「雲ひとつない空は、近くにあるのか遠くにあるのかわからない。ぼくらは雲を頼りに、宇宙までの距離を測るんだ」
ぼくは妻の顔のかわりに上を向いていった。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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