誰かに向けられた仮定は、それだけでひとつの質問になる。[言葉の切れ端010]

誰かに向けられた仮定は、それだけでひとつの質問になる。[言葉の切れ端010]

彼女はその時点ですでに、7つの名前を持っていた。

「レミ、ジュディー、本多、ユリア、ステシー、グリーン、それからコナツ。好きな名前で呼んでくれていいわよ。人気なのは、ユリアとコナツだけど」

「その中に君の本当の名前は含まれているの?」と彼は素直に思ったことを述べた。

「どれも私の本当の名前よ。今あなたが言った『君』という呼びかけをのぞいて」彼女はいくぶん気を悪くしたように言った。

「つまり、市役所の戸籍謄本とか、免許証とか、パスポートに記載されている名前ということだけれど」

「つまらないことを言うのはよして」彼女は悲しそうな眉をつくった。

「もう一つだけ質問してもかまわないかな」彼は目の前の美しい女性に対して警戒心を抱くべきか、好奇心を抱くべきかを自分に問うた。

「君が身分を隠さなければならない状況、あるいは職業ではないのだとしたら」

「誰かに向けられた仮定は、それだけでひとつの質問になるのよ。知ってた?」

「わかったよ。なぜ君は7つも名前を持つことになったんだい」彼は注意深く質問を選んだ。
酒が飲みたかった。

「あら」彼女の目がうれしそうに輝いた。
「だってひとつしか名前を持っていなくて、もしその名前を失くしてしまったら困るじゃない? はじめは予備をひとつ持っていただけだったんだけど、もし2つとも失くしてしまったらって思うと。7つあれば、安心でしょう」

「なるほど。じゃあグリーンと呼ばせてもらうよ」と彼は言った。
「僕の名前が”緑川”だから、親しみやすい」
苗字は高校時代の同級生に借りた。

「いいわ、緑川さん」彼女は大きな瞳を細めた。

彼女は7つの本当の名前を持ち、彼は一つの偽りの名前を持っている。
それらの間には、目に見えるほどの差異はない。

二人が一緒に暮らし始めるのは、その二日後だ。