希望と絶望の割合[言葉の切れ端012]

目を覚ますと、頭の血管を岩が通過していくような感覚に襲われた。
視界の中に誰かの爪先。
私は絡まってドロドロに溶けた記憶から、どうにか読み取れそうなものを見つけて組み合わせる。
昨日はユリの誕生日だったのだ。
彼女は私たち四人グループで最後に二十一歳を迎えた。
私以外の三人は、一般企業に就職活動をしている。
音を立てないように起き上がると、背中がきしんだ。
アカネの1DKのこたつの上には、申し訳程度に残ったケーキと、ティッシュペーパーに油を吸われたポテトチップスが横たわっている。
昨日の大騒ぎの名残りが、部屋のあちらこちらに残っていた。
こうして迎える朝に、多少なりとも希望を見出だせるのは、いったいいくつまでなんだろうと私は思う。
四十歳の私たちが、今日と同じように明け方まで騒いだ後、そこには希望と絶望がどれくらいの割合で存在するのだろう。
書いた人
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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