素直になれなくて[言葉の切れ端024]

「まりちゃんは?」あたしが温めた魚の煮付けを出すと、夫は言った。
「まりちゃんはもう、ごはん食べたの」

「待ってたほうがよかった? 夜の十時まで、おなかすかせて、いつまで待てばいいかも知らずに」

あたしの声は冷たい。
食べた、とただそれだけ言えばいいのに、十五時間ぶりにヒトとする会話のやり方を、思い出せない。

「ごめん」男は言って、小さくいただきますを言う。

ああ、あたしはこの人を愛しているのだ。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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