とことんツイていることを覚えておくこと[言葉の切れ端046]

空

じゃああなたは、神様だったってわけ?

私は今では空となった存在に問う。
先程までその存在はコップしており、読書灯しており、ミニトマトしていたのだ。

思えば今日は、あまりにもツキすぎていた。

まずショッピングモールのトイレが、私のちょうどあとから行列になった。
そして壊れて動かなかったカーナビが偶然直った。
ホテルでは部屋をアップグレードしてもらえた。
夕食のビュッフェでは、好物のカラフルなトマトが山ほど食べられたし、
生理が一日ずれてくれたおかげで二度も温泉に浸かることができた。

二つほど、私を混乱させた出来事もあった。

ショッピングモールから駐車場までの道のりがわからず、半ばパニック状態で母親に電話をかけたこと。
思った通りの時間にホテルに到着できず、イライラしてしまったこと。
あのとき以来、私はちょっとしたことでひどく取り乱すのだ。

でもそれを差し引きしても、私は、私たちはとことんツイていた。
いつもならこういう役回りは妹のはずなのだ。

きっと今や神様となった存在が、将来から前借りしてでも今の私にツキを回してくれたのだ。
こんな状態のときには、とびっきりのラッキーくらいにしか幸福を感じられないから。

このことをきちんと覚えておこうと、私は思った。

これから先もしツイていないことが起こったとしても、それは神様が、存在が、私のことを信用している証なのだ。

そのとき私は、今より少し強くなっている。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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