人を殺したことになっている[言葉の切れ端048]

らせん階段

手錠がはめられる瞬間を、夢の中で初めて体験した。

大学時代の親友が言った言葉は唐突だった。「お前、人を殺したのか?」

六年の教科書を買うためにリストを取りに行った私は度肝を抜かれた。私たちはスケジュールの関係上、先に旅行を済ませてきただけなのだ。

「トリップ?」彼はあからさまに眉をひそめた。
「薬をやって、ハイになって、人を殺したのか」

私はどうしてそんな話になるのか、そんな話を彼が信じているのか理解できなかった。でも同時に、彼の言っていることが正しいような気もしてきた。
「そうね、そうかもしれない。でも本当に何も覚えてないのよ。ごめんなさい」

私は彼に付き添ってもらいながら警察へ行った。
新学期のお祭り騒ぎで、道中はひどく混雑していた。ほとんど人をかきわけて進まなくてはならなかったほどだ。彼らの中に数人、私の罪を知っている人がいる。そういう話だった。

警察署の中には、私のほかにも人を殺したことになっている人がたくさんいた。
私は彼らと一緒に、長い長いらせん階段を降りた。まるで集団で小旅行に連れられる学生みたいだ。
違っているのは、誰も言葉を発しないことと、らせん階段が深く狭くなっていくことだ。

階段は最後には積み重ねた本になり、ついにはまっすぐな本棚になった。
私たちはそこを滑り降り、バラバラと本と一緒に床に叩きつけられた。
自力ではのぼれそうもない。私は階段の最後の段を見上げて思った。

そこで私たちを出迎えたのは、オレンジ色のぬくぬくとしたセーターに身を包んだ温厚そうな老人だった。彼はたぶん、魔法が使えるほうの人だ。
私たちはコンピュータの前に、向い合わせで二列で座らされた。

「ねえ、冗談よねこれ。授業の一環よね?」左隣に座った華奢な女が言った。
自分で思考することのないまま人生を終えるタイプだ。

「さあね」私は死んだ画面を見つめたまま言った。唯一の救いは、そこが暗くなかったことだ。すべては淡いオレンジ色の光に包まれていた。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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