心の栄養失調[言葉の切れ端077]

栄養失調ね、このままだと死んでしまうわよ。休みなさい。
ぼくのドクターは、ぼくの話を聞いてそう言った。
でも、ごはんはちゃんと食べていますよ。
ごはんの話じゃないわ。
ドクターはまるでぼくがすごく面白い冗談でも言ったみたいに笑う。
あなたに足りないのは、お休み。完全なる休暇。いい。休暇には栄養があるの。摂らないと死んでしまうわ。
でもぼくの働いている会社はホワイト企業です。
あなた自身はちっともホワイト企業じゃない。ちがう?
わかりましたよ、とぼくはちょっとばかり投げやりに言う。この人はぼくの仕事のことなんてちっともわからないし責任を取る必要もないのに、ぼくはこの人に従わなくてはならないのだ。世の中実におかしい。
ねえ、覚えておいて。ドクターは続ける。
適当なところで帰ってこなくちゃだめよ。栄養は摂りすぎるとふとっちょになっちゃうから。
やれやれ。
書いた人
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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