何もかもがバーチャル化される時代に安泰な就職先[言葉の切れ端087]

「やっぱりIT系に行っとくべきだよな、将来性とかを考えるとさ」

マサトが薄いジントニックをごくごくと飲む。こいつはとことんスーツが似合わない。

「十年後になくなっている会社に就職するわけにはいかないしね」爪をいじくりながら気怠そうに答えるミカコは、給料を抜きにすれば本当は絵本の出版社を希望しているらしい。人は見かけではわからない。

「それでも仕事そのものはなくならない。希望がないよねえ」私たち全員のために鍋の具材を切っているのは、ヒロキだ。

「お金ですらバーチャル化だもんね。造幣局ですらなくなるかもしれないのに、将来性のある企業ってどこよ?」私は皆に調子を合わせて言う。就活のために切り揃えた髪がうっとおしい。

「俺たちの肉体がバーチャル化されない限り、世の中が何もかも電子化されることはない。俺たちが飯を食いウンコをする限り、IT企業なんかよりも農家のほうがよっぽど安泰だ」

コウだ。変わり者のコウ。

チュッパチャップスのなめすぎでむし歯になった。こいつみたいに生きられたらな。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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