赤い糸ってなんで赤いんだろう[言葉の切れ端088]

「ね、赤い糸ってなんで赤いんだろうね」サヤは長く伸びた影を見て呟く。

微妙な中学校時代を終えて、サヤとカイトはまた一緒に登下校をするようになった。きょうだいのように育ったのだ、そう簡単には離れられない。

「血の色だな、そりゃ」カイトは怖い顔をする。

「ひぃ」サヤは思わず奇妙な声を出してしまう。

「もうちょっとロマンチックに考えられないわけ。あのね、昨日読んだ小説にこう書いてあったの。『赤い糸は普段は赤くない。日が暮れる瞬間だけ、夕陽に染まって赤くなる。そして夜が来て、糸は見えなくなってしまう。だから、糸が赤くなる瞬間を見逃さないように』素敵でしょう? カイトは子供だからわかんないよね」

サヤは制服のほつれた糸を手でちぎる。紺色の糸は、赤にはならない。

「俺が血の色だって言ったのは」サヤの一歩前でカイトは前を向いたままだ。「命をかけるからって意味だ」

どうだ、と言わんばかりに嬉しそうに振り返り、カイトはそのまま歩いてゆく。

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