婚活パーティーで真実は浮いて見えるのだ[言葉の切れ端092]

「好きなものお?」

彼女が面倒くさそうに言う。

婚活パーティーで、僕が三番目に話すことになった人だ。普段タバコを吸うんだろうなという顔と歯ぐきの色で、今は禁断症状が出ているのか右の指先を細かく膝に打ち付けている。

「キシリトールのガム。ラッシュの石けん。全自動の家電」それでも右ななめ上を見ながら好きなものを並べていくある種の健気さは、可愛らしくもあった。

「快適なインターネット回線。タバコ。ヨーグルト」彼女は続ける。

僕は今まで話をした二人に、タバコは吸わないと嘘をついていたのだ。彼女は少なくとも僕のような嘘つきではない。

「素敵ですね。逆に嫌いなものってあるんでしょうか」僕は取引先にも見せたことのないとびきりの笑顔をつくる。

「嫌いなもの? 正論と一般論。あと、こういう上辺ばっかりで中身のない会話」

そう言って彼女はタバコ、と呟いて席を立つ。

残された僕は、彼女のこととタバコのことを半分ずつくらい考えている。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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