清く正しいストレス発散[言葉の切れ端093]

「ストレス発散には、ジョギングやハイキング、長めの入浴が有効です、だってさ。これ書いた奴、まじでバカなんじゃないの」

奈美ちゃんは二袋めのスナック菓子を開けて、右手を時おり濡れ布巾で拭きながらスマートフォンを離さない。

「Googleで検索結果一ページ目にある記事に、本当のことは書かれていないよね、たぶん」

僕は月に平均して三回、奈美ちゃんのストレス発散に付き合うことにしている。

「ふーん」

奈美ちゃんはチューハイの缶をぐっと潰し、さっき僕と買いに行ったプリンとカフェオレに手を伸ばす。

「そんなふうに清く正しく発散できるストレスなんて、ストレスとも呼べないよ。それに、ストレスは発散しておかないと病気になる。だから僕らは正しいことをしているんだ」

僕の言葉に満足したのか、奈美ちゃんは笑みを浮かべている。「でもそう云う君はどうやってストレスを発散しているわけ?」

僕は仕上げのひと言を放つ。

「奈美ちゃんの顔を見ていると、あまりにも幸せでストレスが出る幕がないんだよ。僕って清く正しすぎてつまらない男だと思う?」

「プリンあげるよ」ふふっと笑ってから奈美ちゃんがプリンを差し出してくれる。

どうやら気が済んだようだった。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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