コストパフォーマンスの高い生き方[言葉の切れ端139]

周産期死亡率が下がり、感染症が克服され、年寄りはとりあえず生きながらえることを保証されています。
誰かが生まれたら、彼乃至彼女が60歳までに死ぬ確率はかなり低くなりました。

もう昔みたいに、バックアップのために子供を何人も産む必要はなくなり、死んでしまうリスクを考慮したコストパフォーマンスはぐんとあがったわけです。
そのかわり、生き続けることに対するコストパフォーマンスはいくらか悪くなったかもしれません。受験とか、がん治療とか。

「は、は、は」隣で講義を聞いていた相原がこらえきれないといったふうに笑う。登壇者である先生も嬉しそうに相原を見やって、にっこりする。

生きがい。
自分らしさ。
機会の平等。
多様性。

先生はこれらの言葉を左手に収め、先ほどの「死なない人々」と合わせるようなしぐさをした。

人々はすでに、種の保存を本能から除外しようとし始めています。
個を優先する生き方は、子孫を増やすこととある意味では逆行するのです。

そして人々がすっかり種の保存を忘れ去り、徹底的に効率化された消化試合としての子孫継承の段階に入った頃を見計らって、彼らは人類を襲うでしょう。

死にゆく人々は言うのです。

「嗚呼、まだ私の人生でやりたいことがあったのに」

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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