うるさい隣人の理屈[言葉の切れ端169]

光はうるさい。
なぜなら光は波だからだ。
だから理論上は、工事現場よりも、真夜中のパーティー会場よりも、赤ん坊の鳴き声よりも、打ち捨てられた廃屋に灯る一本の蛍光灯が最も耳障りだということになる。
ここにいる我々の全てがそれに疑いなく首を縦に振られない理由があるとしたら、ひとえにそれは集中力の問題なのだ。
集中力の欠けた人間に静寂は耐えられないのだから、隣室がうるさいという事実に感謝しなくてはなるまいよ、君。
それが隣の佐久間さんがぼくに言ったすべてだった。
彼はそれを一息で一瞬もぼくから目をそらさずに言い切り、ばたんと扉を閉めた。相変わらず鍵もチェーンもかけなかった。
そのまましばらく彼の部屋の前に立っていると、また例の聞くに堪えないドラム音が響いてきた。
書いた人
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。
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著者:田中千尋
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