抜かれたクッキーの味方をする仕事[言葉の切れ端205]

ミスタ・タカスギはそれをクッキーの生地にたとえて教えてくれたのだ。

「薄い一枚の皮から、お前はくまの形にクッキーをくり抜く。そうだよな? くり抜いたくまの形を見て、お前は満足するわけだ。焼いたあとにそれがふくらんで、肥満気味のくまになったとしても、まあとりあえずはくまだからな。ところが、お前が抜いたあとの生地にも、ちゃんとくまは存在する。くまがいた跡だとか影だとかお前は言うかもしれないが、ちゃんとくまがいるんだ。俺はそいつと喋ったこともあるからな。でもな、お前たちはそっちの方のくまに見向きもしない。なかったことにして、また一枚の皮に戻しちまう。だから俺はとことん抜かれた側のくまに味方する。そういうことさ」

ミスタ・タカスギは自分の職業について、そしてそれがなぜ金銭的に恵まれないものであるかについて、そのように語った。

もちろん6歳のぼくらに、その話がわかるわけはなかった。泣き出す子までいた。

でもおとなになって、彼と同じ職業に就いて、ぼくはそれ以上うまいたとえ話を思いつけなかった。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

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