どんな色にも染まらない「黒」

1,自分を強く強く持っていて、信念を貫くためにとことんこだわる人がいる。

2,人のことを優先し、どこまでも寛容で、場の空気に自分を合わせる人がいる。

どちらも魅力的な人だと思うのだけれど、どちらがいいんだろうか。

1の人は、すごく才能を持っていたり、初志を貫徹したり、周りを先導していく素質がある。
でかいことを成し遂げるのも、こういうタイプが多そうだ。
その反面、協調性に欠けたり、人に迷惑をかけることもあるだろう。
いわゆる、”difficult person”というやつだ。

2の人は、自分を持っていないと言われたり、どこにでもある平凡な人に紛れてしまいがちだ。
野心もあまりない場合が多い。
けれど、他人とうまくやっていったり、人生を平和に笑って過ごしたり、そんな風に日々を過ごしていける。
そう、”easy person”だ。

わたしは、このeasy personにすごく憧れる。
取り立てて才能があるわけでもないし、大きな野心があるわけでもないけれど、変なこだわりが強すぎる。
そのせいで、特にこだわりの強い人たちと馬が合わない。

自分のこだわりのせいで、周りに迷惑をかけていることに、耐えられなくなる時がある。
それを無視できるほどに無神経ではないけれど、こだわりを曲げるほど寛容でもない。

これは「弱さ」の表れなのだ。
自分の領域に侵入されることへの、恐怖。

このこだわりを価値に変えて、誰になんと言われようと自分の信念を守りぬくことのできる人は、
例え多少の衝突があったとしても、自分の中の芯を見失わずにいられる。
そういう職人な人たちを目にすると、彼らの刺々しさはむしろ美しい。

けれど、ご存知の方も多いだろう。
こんなふうに生きるには、それはもう強い強い精神がいるのだ。

時に痛烈に批判されることもある。
利用してやろうと近づいてくる人もいる。
仕事を選べないこともある。
それでも自分で選んだことだから、妥協も言い訳もできない。

こんな状態に、24時間365日晒されて、それでも強く二本足で立っていられる人だけが許されるのが、本当のこだわりなのだろう。

絢香の”I believe”の中に、こんな歌詞がある。

どんな色にも染まらない
黒になろうと誓った

そう。こんな風に生きたい、と思った。

そんなに強くもないけれど。

それでは、私のように弱いけれどこだわりを捨てきれない人間はどうしたらいいのだろう。

私は、とにかく暫定的にでも解決策を見つけたと思う。

つまり、時間を切り売りすることにしたのだ。

肉体が何とか生きていくために、自分の日常のうちのいくらかを
「白」にする。
全然本意ではないし、無理もするけれど、そこでは自分を封じ込める。

そうして、精神が生きていくために、切り取って残った時間を守る。
つまり、「黒」にするのだ。
誰にも踏み込ませない、自分が大切にしたいものだけを集めた世界を、黒の世界と呼ぶ。

このバランスを取っている限り、こんな世界でも、こんな私でも、平和で幸せに生きていける気がするのだ。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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