子供の願い、親の願い。

私の住んでいるところは、昔ながらの「村」の風景が残っている。

先日、少し外れたところから自転車で休日の午後をのんびりと過ごすために通りがかったような家族連れとすれ違った。

前の自転車には、母親と小さな男の子。
もう一台には、父親と女の子が二人。

村の真ん中に大きく掲げられた下手くそな地図を見ながら、自転車を進めていく。

そこで、大阪府知事賞を取った立派な外観の家の前を通りがかった。
間違いなくお金持ちの、由緒正しき家といった風だ。

そこで、母親が声を上げる。
「すごいねー、おおきなおうちだねー。」

娘が応じる。

「いいなぁ。なんだかうちの家がちっぽけみたいに思えるよ。こんな大きなうちに住めたらいいのになぁ」

ぎくりとした。

わたしの側を通り抜けていった自転車を漕ぐ父親の背中が、少しだけ小さくなったように思えた。

子供は素直だ。
素直で、残酷だ。
大人たちが何とか折り合いをつけて妥協してきた現実を、それでも必死で守っているささやかな現実を、いとも容易くえぐりとる。
しかも、一切の悪気なく。
これから彼女たちも知っていくことになる。
世界に限りがあること。
それでも希望を失わずに生きることの凄みを。

子供たちを持つことの決意を。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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