図書館と本屋さん

私は、紙の本が大好きです。

あの手でめくる感じ。紙のにおい。点が集まった画面上ではなく、紙に載せられた文字たち。
それらが頭の中で踊り、わたしの脳に言葉を囁く感覚。
時に乱暴で、時に優しい。
手に持った時の重み。それすなわち本の長さ。
ぎゅっと抱きしめると、確かにそこにある思想のかたち。

本棚にずらりと並ぶ作家の思いたち。

そんな、紙の本が大好きなのです。

本がたくさんある場所。図書館や本屋さんを思い浮かべるでしょう。

そのどちらが好きか、と問われたら、あなたはどう答えるだろうか?

私は、「場所」として見るなら図書館が好きだ。

図書館は、本屋さんよりも優しく、穏やかだから。
ゆっくりと私たちを受け入れる。

そこには、本を手に入れるのではない、目的のない旅が含まれる。
本屋さんにはもちろん本を手に取るため、新しい本を物色するために行く。

ところが、図書館に何をしに行くのですか、と聞かれたら、私は困ってしまう。
図書館に行こうとする時、むろん本を手に取るわけだが、本を目指して来たのではないような気がするのだ。

不安になって答えを求める時。
ある平和な休日、ふと散歩帰りに立ち寄る時。
自分が持つ本たちがなんだか私を拒絶しているような気持ちになる時。
あぁ、たくさんの本の中にうずくまりたい、という時。

図書館に行くとき、実に様々な思いを持っている。

一方、「本」そのものに焦点を当てた時、私は本屋さんの本が途端に輝いて見える。

誰も手に取ったことのない、私だけの本。そしてそれは、私だけの世界になる。
新しい本がうず高く積み上げられたそこの前に立つと、私の物欲はむくむくと膨れ上がる。

図書館の本は、もうほかの誰かが先に体験してしまった世界を、借りているような気持ちになってしまう。
なんだかバッチイ気もするのだ。

どうしてこんなことを思うのだろう。
本屋さんの本は、すごく気取った感じだけれど、バージンなのだ。

私はその本に、他の読者と比べられることはない。
「あの人はこの文節でもっと高尚なことを考えていたよ」

本にそんな風に思われるのが怖いのだ。

今日、図書館に行った。

よしもとばななさんの本を、四冊借りた。

小雨の降る中、濡れないように大事に本を抱えて帰りながら、ふと思った。

この本たちを、私は2週間だけ借りる。
そうしたら、この子たちはまた別の誰かのところで読まれ、本としての魅力を増すのかもしれない。
そうしてみんなでひとつの本を共有して、育てていくのだ。

その間、私はまた違う本を読み、感じる。
その本を育て、その本に育てられる。

ずうっと独り占めしているから、本はひとつの世界しか見ることができないのかもしれない。

みんなでわけ合えば、本も嬉しいのかもしれない。

し、師匠。

私は腕の中にある本に敬意を持った。

図書館で本を借りるって、悪くないかもしれない。

あ、と私は思う。

今度の誕生日にお父さんにお願いしていた図書カード、どうしよう。

気に入った本があったら、自分が誰かに貸してあげたいような本に出会えたら、そしたらその本を本屋さんで買おう。

そしてそれがきっと、読者ができる、唯一の作家への目に見える応援になるのだと思う。

さぁ、それでは今日はパソコンを閉じて、借りてきた本を読もうかな。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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