【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次

【長編小説】『少女が大人になるその時』概要・目次

 職業、主婦兼社長。年齢、五十八歳。九石橙子(さざらし とうこ)は、仕事と家庭の両立で忙しい毎日を送っていた。
 そんな中、つい三ヶ月前に結婚したばかりの娘であり、同時に橙子の会社の敏腕マネージャーでもある娘の凜花(りんか)が自ら行方をくらませた。何の前触れもなく、何の手がかりも残さずに。

 橙子は社長業をこなしながらも、自分なりに凜花を探し始める。彼女が行きそうな場所、考えそうなこと、連絡を取りそうな友人。けれどその過程で、橙子は自分がほとんどまったく娘のことを知らなかったことを思い知らされる。
 橙子は娘探しに疲弊しながらも、その理由を求め続けた。会社の従業員、偶然出会った凜花の同級生、新婚三ヶ月で妻に姿を消された義理の息子、そしてほんとうの息子。彼らと話をする中で、その理由は整理されて明確にされるどころか、ますます闇の奥深くへ沈んでいくようだった。橙子は自分がいったいどんなふうに行動すればいいのかわからなくなっていった。

 どこで間違ったのだろう。橙子は同時進行的に自らの過去を手繰り寄せていった。恋愛、結婚、子育て。あの頃は、何もかもがもっと単純明快だった気がする。橙子は今の夫である孝太郎に恋をし、大学卒業と同時に結婚した。
 嫁と姑が抱えるほとんど宿命的と言ってもいいようなすれ違いを、よくある一般論として消化できないまま、専業主婦としてままならない日々を過ごした。跡継ぎ候補としての息子、仕事で家に帰らない夫。

 自分と血を共有する唯一の存在である息子と、あくまで自分の立場を崩さないままの優しい夫。それでも橙子はその生活に耐え、幸福さえ見出そうと努めていた。

 そして娘が生まれた。
 聡明で、常に周りの状況を把握して自分の行動を規定しているような、どこか悟ったようなところのある子だった。

 凜花の人生の、あるいは橙子の人生のどこに娘の失踪の要因があるのか、橙子には最後までわからなかった。

(約12万字)

【目次】
プロローグ
(A1-1)ごくありふれた出会い
(A1-2)これは享受されるべき正当な幸福である
(B1-1)愛に飢えることと魂の自己完結性
(B1-2)消えた娘のことは殆ど知らない
(A2-1)つぶしの利かないプロフェッショナルなスキルとしての嫁修行
(A2-2)精神的かつ物質的不自由と時間的自由
(B2-1)開始された女たちの考察
(B2-2)存在しなくても目指すべきであるもの
(A3-1)忍耐の価値は時代の変遷に呑み込まれてしまう
(A3-2)子どもに罪はないはずなのだけれど
(B3-1)十二時間ごとの社長と主婦
(B3-2)使いみちのない人間、自覚のない奴隷制度
(B3-3)午後の延長線から線路が切り替わる瞬間
(B3-4)それはときどき私を襲う
(B3-5)それは個人の傾向と時期の問題だ
(A4-1)大人になって失う自由
(A4-2)企業家の妻としての先輩
(A4-3)夫がわかってくれない
(A4-4)味方がひとり、死んでしまった
(A4-5)娘のためを思って
(A4-6)娘が肩代わりしてくれた傷
(B4-1)電話のベルは相手の事情など考えもしない
(B4-2)義理の息子というその人
(A5-1)やっとここまで来た
(A5-2)そして新年会ははじまる
(A5-3)この家の血を抜いてあげる
(A5’-1)夏は終わり秋が腰を落ち着ける
(A5’-2)癒えない種類の傷
(A5’-3)ここにしかできないことなんて
(A5’-4)明けたかと思う夜長の月明かり
(A5’-5)新しい何かが始まる予感
(B5-1)余暇的部分に成り立つ仕事
(B5-2)息子との対話その1
(B5-3)息子との対話その2
(B5-4)その目はなにも見てはいなかった
(B5-5)もうひとつの世界
(B5-6)随分遠いところまできてしまった
(エピローグ)嬉しさに打ち震える黒い血液
(エピローグ)一通の手紙と最高の復讐