種の保存としての孤独[言葉の切れ端020]

言葉の切れ端

「孤独とは何だ」とそれは言った。 いや、「言った」という表現が正しいのかどうか僕にはわからない。 それには、僕らが口と称するパーツは付いていないようだったからだ。 「説明することはできない」僕は言った。 「人はそれを感じたとき、それが孤独であることがわかる」 「それは愉快なものか?」それは興味がなさそうに言った。 「取り立てて愉快というものでもない」 「ではなぜそんなものが存在するのだ?」 「幸福 […]

洞窟の幸福[言葉の切れ端019]

言葉の切れ端

私たち、洞窟に暮らしてたのよ。 最後に出ていくときに彼女が言った。 あたたかくて暗いの。 出口も入口もなくて、おかげで私たちは動き回らなくていいの。 そこにじっとしているだけで、幸福なの。 空気が薄くなっていく以外は、完璧な住処なのよ。 彼女はこちらを向いていなかった。 緩やかにそこで土になっていくのを拒んだのは、あなたよ。

思考停止としての首輪[言葉の切れ端017]

言葉の切れ端

「人間は、社会を作ってしまったから」 俺の前で汚い白毛を風に揺らせながら、そいつが言った。 「社会は何のためにできたと思う?」 「さぁな」俺は面倒になって、わざと愛想なしの返事をする。 「お前の首輪は、社会の象徴か、それとも共生の象徴か」 「興味はない。少なくとも、不満はない」 「そうかい」そいつはわずかに軽蔑したように言った。 「気をつけることだ。思考停止したイヌは、社会に利用されるぞ」

ひとりになりたくて、なりたくないの[言葉の切れ端016]

言葉の切れ端

ひとりにしないで、とあたしはすがる。 人一倍寂しがりやなのだ。 ひとりにして、とあたしは拒む。 バケツがいっぱいになったのだ。 ここでの問題は、人が取りうるコミュニケーションというものの、その浅さなのだ。 わかりあえなさだけが募ってゆく、そのやるせなさなのだ。 太陽がもう少しだけ熱かったら。 あるいはもう少し近かったら。 全部は溶けあって、あたしたちは別々で存在しなくてもよくなるのにな。

少年たちは、大人になることを拒む。『さよなら僕の夏』レイ・ブラッドベリ

さよなら僕の夏

胸が締め付けられるほど、美しい小説に出会える瞬間がある。 どうやってそんな小説に出会うか? インターネットで検索してみるのも良い。 友人に聞いたり、読書コミュニティに参加したり、アプリケーションサービスを使って人工知能に勧めてもらうのもいい。 けれどやっぱり一番うれしいのは、図書館や本屋で何気なく手に取った小説が素晴らしかったときだ。 なぜ手に取ったのだろう? と後であらためて考えてみても、その理 […]

新しい文学なんて、もう作れないんじゃないか『カラマーゾフの兄弟』

久々に再読。 とにかく読みにくい、というのは相変わらずで、でも頑張って上巻の最後のほうまでたどり着くと、もう途中ではやめられなくなる。 宗教、 人間という生き物の本質、 我々の逃れられない宿命、 高尚な葛藤、 低俗な罪深さ、 それらのあいだに横たわる線がいかに曖昧でほどけやすいか。 正義と正義の衝突、 冤罪、 真理と真実と事実。 ドストエフスキーは、その読みにくさから、『カラマーゾフの兄弟』しか読 […]

雲と綿と夢と拘置所[言葉の切れ端013]

言葉の切れ端

陽だまりにちょうどすっぽりと体が収まるように、身を横たえた。 家の中で唯一窓から光が差し込む場所だ。 ぼんやりと空を眺めると、そこにある一つの高層ビルだけが僕と世界のつながりになった。 僕は雲に浮かび、地上からただひとつここまで届くビルを眺めているのだ。 雲の上は、拘置所からの眺めに少し似ていた。 額から頭頂にかけて、分厚い綿を詰め込まれたような感覚があった。 それが眠気だと気付く前に、僕は眠って […]

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