死を意識すると生が見える『ハードボイルド/ハードラック』吉本ばなな

【ハードボイルド】

「私」を好きだった千鶴。
女として私が好きな彼女を私はある意味で利用した。

そんな彼女は、死んだ。
生きていた頃から、死後の世界と近い場所にいたあの子。

私は、私が彼女が想うようには彼女を想うことができなかった。
だから、彼女の気持ちなんて一生理解できない。

誰かにとってなんでもないことでも、他の誰かにとって死に等しいほどつらいということもある。 P15

そうして彼女のことを思い出しながら、私は山奥に来ていた。
古びた旅館。
私はここで何かを確かめたかったのかもしれないし、取り戻したかったのかもしれない。

私は、どこでもない所に来てしまった気がした。もうどこにも帰ることはできないような気がした。あの道はどこにも続いていないし、この度に終わりはなく、朝はもう来ないような気がした。 P23

時間は、伸び縮みする。伸びる時にはまるでゴムのように、永遠にその腕の中に人を閉じこめる。 P28

永遠にそこから逃れられないような、不思議な空間。
そこには「死」がありありと存在し、だからこそ生がなまなましく浮かび上がる。

【ハードラック】

姉は突然、植物状態になった。
死に一歩一歩近づいていくだけの、残酷な時間。

それは、残された家族に準備をさせるために、姉が与えてくれた時間なのかもしれない。

逃げてしまった姉の婚約者である弟。
なぜかかわりにそばに居てくれる、その弟の兄。
父。
母。
姉にとって、幸せとはなんだろう?

死を目の前にしないと、考えられないことがある。
それが自分の死でなくても、だれか親しい人の死であったら、考えずにはいられない。

生きていることが、あまりにも奇妙で、当たり前ではなくて、誰かが死にかかってるっていうのに、自分の「生」について考えることになる。
いつもなら考えないようなこと。

人は、一生のうちどのくらいの時間をこういうふうに過ごせるのだろう。

重く、濃密で、輝いて、絶望し、決断し、一歩進む。

それはずっと感じ続けるにはあまりにも疲れる感情だけれど、こういうのか一切なくなってしまったら、その人はきっと血が通わない人になるのだろう。

生きる生きる生きる。

ぜんぜんリアルじゃないのに、どうしてこの人の書く本はこんなにも生々しく、わたしの心に直接しみこんでくるのだろう。

《過去の読書感想文》

『サウスポイント/よしもとばなな』
『TUGUMI/吉本ばなな』
『イルカ/よしもとばなな』
『アムリタ/吉本ばなな』
『どんぐり姉妹/吉本ばなな』
『アルゼンチンババア/吉本ばなな』
『虹/吉本ばなな』
『不倫と南米/吉本ばなな』
『SLY/吉本ばなな』
『マリカのソファー/バリ夢日記 /吉本ばなな』
『王国/よしもとばなな』
『キッチン/吉本ばなな』

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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