だまし絵のような物語にどきっとする『図書室の海/恩田陸』

「あっ」
恩田陸の作品を読むと、たいていこんな風に思わず声を上げてしまいそうになる瞬間がある。
発見。
そう一言で言ってしまっていいんだろうか。
それは、推理小説やミステリーなんかの「伏線」が解きほぐされていく時の感覚とはまた違う。

それとそれがこうつながっていたのか、という「理解」的な発見ではなく、
自分が今まで自信を持って立っていた床が、実は天井だったのだというほどの、ぐるりと真反対に移動させられるような感覚。

それはとても不思議な感覚で、やみつきになる。

大学生の頃、ある先輩がこう言っていた。
「恩田陸は、『夜のピクニック』だけの作家だ」
たしかに、夜のピクニックはとてもよかった。

けれど、そうじゃないところに、本当の恩田陸の醍醐味がある気がしてならない。
そんなわたしは、もうすっかり彼女の世界に取り込まれてしまっているのだろうか。

非現実的で、ある意味で不気味でさえあり、けれどどこか懐かしく、それがあたたかい懐かしさというよりは、人間そのものの逃れられない運命としての、生命体としての懐かしさ、とでも言ったらいいのだろうか。

『図書室の海』は、短編集というよりも、そんないくつも広がる恩田ワールドの写真展を見ているような感じ。
その一瞬だけを切り取って、それはそれで完結しているのだけれど、まだまだこの後ろには膨大な世界が広がっているのだという予感。

そしてそれらは、実際に長編小説として明かされたりもする。
該当する長編小説を読んだことがあると、それこそ懐かしい気分に浸る。
好き嫌いはあっても、この人はほんとうに天才なのだろうと思う作家さんの一人です。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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