道徳は方程式じゃないんだから、更新されていいんだよ『新しい道徳/北野武』

北野武。
ビートたけし。
日本人で、この人の名前を知らない人なんて、ほとんどいないんじゃないかとさえ思う。
それくらいの人。
彼はお笑い芸人で、映画監督で、物書き。

言うところの、「すごい人」で、「成功者」。
そんな彼が、日本の道徳に対して何を語るのだろう。
小説以外の本を新品で買うなんて、本当に久々。
そこには、ブレなくて、ゆるくて、でも鋭くて、不真面目で真面目な北野武がいた。

ひとつの価値観で固まった社会はもろい。背筋がどんなにピンと伸びていても、その背筋がカチカチだったら、何かの拍子にポキンと折れるに決まっている。
折れないように、背骨を揺り動かしたり、力を抜いて柔らかくしてやるのが、いうなれば、俺たち芸人の社会的役割なんだろうと思う。P14

これを意識しているお笑い芸人は、ほんとうに強い。
画面を通して、びしびしと伝わってくる。
「お笑い」の持つ癒しの効果は、窮屈な今の時代に人々を本当の意味で救うと、わたしは思う。
小学校の卒業文集に書いた「漫才師」の夢は諦めたけれど、これからの時代も、どうか「お笑い」だけは無難にクレームのない小さなスペースに収まらずに、どーんとガス抜きしてほしいな、と思う。
そして、今のわたしは、小説にもその効果があると信じている。
フィクションの中に宿る、ほんとうのこと。

これはあくまで印象だが、誰も彼もがインターネットを使うようになって、世の中が昔より不寛容になった気がする。自分と違う意見の人間、異端児とか異分子に手厳しくなった。正義感を振りかざし、誰かが何か間違ったことをしたら、徹底的に叩きのめさなくては気がすまない、みたいな奴がやたらと多い。 P84

これはよく言われることでもあるけれど、「多様性」が叫ばれる時代に、異分子排除の動きが強まるというのは、皮肉でもあり、ある意味で変化に対する合理的な生理反応なのかもしれませんね。

勤労が道徳なのは、権力者が楽をするための決め事なのだ。 P125

ほんとね、「頑張ってるからエライ」「しんどくなるまでやる人はすごい」「我慢強い人は尊敬する」なんて価値観は、権力者にいいように使われるだけの、刷り込まれた価値観ですよ。
そんな価値観に、ちゃっかり縛られちゃってますよ、わたしも。
好きなこと極める人はね、ほっといても、誰に何を言われても言われなくても、やるから。黙々と。

いろんな子どもがいるのに、そんなことにはお構いなく、ひとつの価値観だけを押しつける。まるでブルドーザーのように、子どもたちの個性をなぎ倒す。 P130

おっしゃるとおり。そして大企業では、画一化された価値観を持つ人々が、いい感じに集団として機能する。
そんな時代はよかったけれど、これからは社会に出た途端に、そのなぎ倒した「個性」を求めてくる。いまさら育たねえわ、ってな。

道徳というのは、つまり心の栄養みたいなものだろう。食物アレルギーがあるように、心の栄養だって、合う子と合わない子がいるはずだ。 P132

それは、確かにあると思う。
どこまでを「しつけ」とするのか。
どこからが「強制」「矯正」になるのか。
どこまでいけば、「スポイル」になってしまうのか。

親たち、先生たちは日々頭を悩ませているんだろう。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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