このひとは、人類に絶望している『太陽・惑星』上田岳弘

今、芥川賞候補作家として、たぶん世間の注目を集めているひと。
わたし自身は、芥川賞だとか直木賞だとかに疎く、いつもただ自分の好みやその時の気分や運、贔屓にしている作家かどうかなんかで読む本を決めてしまうので、新人作家に出会う確立が低い。
世間では大御所とされている人の作品を読んでいなかったり。
お恥ずかしい限り。

とにかく、いつもなら読まない。
まして候補になったくらいでは、読まない。

だから、「どうして今この本を手に取ったのか?」と聞かれても、うまく答えることができない。

しかしながら、この本との出会いは、ほとんどわたしの世界観をぶっつぶし、再構築してしまうくらいのインパクトがあった。
今回芥川賞候補になっている作品ではなく、彼の処女作。

ざっくりとカテゴリー分けすると「SF」ということになるのだろうか。
彼は、人間という生物をよく見ている。
人間の弱さ、欲深さ、賢さ、そして個人では抗えない時代の流れを感じ取っている。
さらにはそれを文章にする力。

ここに収められた2編の作品は、一見ありえない、ただのサイエンス・フィクションに映るかもしれない。
けれどわたしには、これらがほとんど予言的説得力をもって迫ってきた。

「このひとは、人類に絶望している」
それが読了後の感想だった。

社会風刺、などというなまやさしいものではない。
人類という生命体そのものを強烈に風刺している。

そして、圧倒的な共感。
この人が認められない社会なら、わたしはもうこの世界に見切りをつけてもいい、とさえ思った。
すごすぎて評価されないかもしれない。

これ以上コメントをするのがはばかられる。
こわい。
それくらい、この人には何もかもお見通しなのだ。

まだデビューして三年にも満たない、新人作家。

この人の本を読んだことが、どうしてもたまたまだとは思えない。
まだ胸がどきどきしている。

『太陽』

「人類の第三形態においては、」に続けて、ドンゴ・ディオンムは以下のように述べている。
「人類の第一形態において唾棄すべきとして排除、または克服されてきたものが復権することになる。第一形態において忌避された偶然性、有限性、不公平、恣意、その他ありとあらゆる偏りは、第二形態において完全に排除されるだろうが、第三形態においてようやく本来の意味を取り戻すはずだ」 P94

『惑星』

私の仕事を例に挙げるならば、例えば自殺する人間を生の状態にとどまらせることに成功している。しかし、それが直ちによきことと言えるのか? 私には、よくわからなくなっている。 P129

あなたがたは未来志向ではあるが、どこか未完成で、しかし先に広がる可能性を感じさせるものをいつも求めてきた。つまり、最高の満足感を与えるものは、最高製品になり得ない。 P144

「そして人間はもっと孤独になることができる。より純度の高い孤独」
孤独?
「そう、自分のシェイプを正確に表現できたとしても、それを受け取る側がいなくなるということさ」 P184

「資源も時間も有限である以上、公平とはつまり分配の最適なルールということになる。そうだね?」 P200

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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