背徳感は、悲劇と魅力『木漏れ日に泳ぐ魚』恩田陸

※本記事は多少のネタバレを含みます

わたしたちが認識していることのどのくらいが「客観的事実」で、どれくらいが「思い込み」なんだろう。
ううん、ほんとうは誰にでも同じように見える「事実」なんてないのかもしれない。

けれど、誰かとの間で共通の認識として持たれていた事実が崩れたら。
その事実がゆえに、その相手との関係が保たれていたとしたら。

むき出しの自分たちは、どんなふうに向き合うのだろうか。

幼くして養子に出された妹と、兄。
大学生になって、彼らは偶然出会った。

兄妹として一緒に暮らし始めたはずだった。
にたものどうし。

血のつながりは、居心地の良さにつながった。

愛のあり方。

単なる近親相姦の話ではない。
兄と妹としてうまく接することもできず、
恋人として共に暮らすこともできず、
互いの想いは一致するようで行き違い、

そしてそれは、ある男の死を発端として、そして彼らが子供の頃に起きた事件の記事を通して、変わってゆく。
崩れてゆく。

もっと早くに知っていれば。
今のわたしたちは変わっていたのかもしれない。
それとも何も変わっていなかった? 結局こうなることは。

二人で過ごす最後の夜に、全部をぶつけあう。
疑念、期待、推理。

生きるとは、どこにたどり着くことなのだろう。

それはそれで一つの結末。胸の中でそう呟く。
自分の中に、ひどく刹那的な部分があることは子供の頃から自覚していた。自分の痛みをひとごとのように流してしまえる自分がいた。何もかも消えてしまえばいい、自分の存在を抹殺してしまいたい、と願う瞬間が繰り返し訪れた。 P25

恩田陸の作品には、こういう達観した感じというか、奇妙なまでの多重な人格、重なる物語の世界がしばしば存在する。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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