どこまでも無垢で、自由で、孤独で。『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ
※本記事は多少のネタバレを含みます。
駆け出しの小説家の「僕」。
そして気まぐれで美しく、自由奔放な猫のような新人女優である隣人。
彼女は、誰もが足を絡めとられてしまうような社交界の人間関係を、その上を滑らかに滑るようにこなす。
しかし、その罪なき幼さがトラブルを巻き起こし、彼女自身を追い詰めていく。
「人は誰しも、誰かに対して優越感を抱かなくてはならないようにできている」と彼女は言った。「でも偉そうな顔をするには、それなりの資格ってものが必要じゃないかしら」 P100
『ティファニーで朝食を/ティファニーで朝食を』
そして、その後につづくいくつかの彩り鮮やかな作品集。
中でも『クリスマスの思い出』は、特に切ない。
一つ屋根の下で暮らす家族の、老婆と少年のお話。
少年は、子供の頃に体験した、その特別なクリスマスの思い出を、これから後生大事に抱えながら、大人の世界を渡り歩いていかねばならないのだろう、という予感。
大人になることは、無垢を手放す、ということなのかもしれない。
欲しいものがあるのにそれが手に入らないというのはまったくつらいことだよ。でもそれ以上に私がたまらないのはね、誰かにあげたいと思っているものをあげられないことだよ。 P256
『クリスマスの思い出/ティファニーで朝食を』
訳者あとがきで、村上春樹はこのように語る。
寓話と言ってしまえばそれまでだ。しかし真に優れた寓話は、それにしかできないやり方で、我々が生きていくために必要とする力と温かみと希望を与えてくれる。 P280
『訳者あとがき/ティファニーで朝食を』
全くその通りだと思う。物語は、フィクションだからこそできることがあるのだ。
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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