『結婚式のメンバー』カーソン・マッカラーズ(村上春樹訳)

わたしたちが12歳だったころ、というのを覚えているだろうか。
作者が生まれた1917年くらいの人たちは、今の人たちよりも精神的成長が早かったのかもしれない。

けれど、繊細で思考を愛する性格を持つなら、この本の主人公であるフランキーの心の動き、自分でも予測の付かない行動の数々に共感しないわけにはいかないだろう。

12歳というのは、ある意味でもう「小さな子ども」ではない。
まだ恋さえ知らない場合が多いだろうし、お酒だって受け付けない。
けれど、大人の世界がすこしずつ見えてくるようになる。

それにもかかわらず、彼/彼女にはまだその抗体がない。
多感であるがゆえに、日常のささやかなできごとから膨大な情報を受け取る。
けれど彼女には、もう子どもの頃のようにただ混乱して、癇癪を起こせばいいという対処法はもはや許されない。

12歳というのは、そういうことをするには「あまりにも大人」だからだ。
12歳の女の子というのは、まわりからするといちばん扱いの厄介なものかもしれない、と思った。
本人はすっかり大人になった気でいるんだから。

兵隊である兄の結婚式という、大きくはあるが、人生における幸福でささやかなひとコマであるはずのイベントが、フランキーかかると人生をかけた大事件になる。

彼女はその喜ばしき決定を街中の人に(見知らぬ人にも)触れ回る。
彼女はただ、それを自分の中にうまく処理する術を持たなかった。

周りから見れば、ただのおかしなのっぽの女の子かもしれない。
けれどフランキーの体と心は、大爆発を起こしそうだった。

そして、その時はやってきた。

その日たった一日が、長い過去や、これからの輝かしい未来と等しく重要であるように思えた。 P120

彼女の中でなにかが弾けて、まわりの全てのことがすっかり昨日までのそれと違って見えた。

そこでその少女は手始めに改名を望んだ。
昨日までの自分とは、なにもかもがそっくり入れ替わってしまったように感じたのだ。まるで別人になったみたいに。

それでも、彼女自身はやはり少しずつしか変わらない。
劇的な変化を感じながらも、彼女の中にはまだ幼さのしみがこびりついている。

おそらくこの少女の身に起こるできごとは、決して特別なことではない。
ただ、彼女の両目を通してみると、世界はこれほどまでにめくるめく色鮮やかさを見せてくれるのだ。

「ねえ」とF・ジャスミンは言った。「わたしが言おうとしているのはこういうことなのよ。わたしがわたしであり、あなたがあなたであるっていうのは変なことだって思わない? わたしはF・ジャスミン・アダムズであり、あなたはベレニス・セイディー・ブラウン。そしてわたしたちは互いを目にすることができるし、触れ合うことができるし、同じ部屋の中に年がら年中一緒にいることができる。それでもなお、常にわたしはわたしであり、あなたはあなた。そしてわたしはわたし以外のなにものにもなることができない。そしてあなただってあなた以外のなにものにもなることができない。そういうことについて考えたことがある? そういうのって変だとは思わない?」 P226

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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