『不倫と南米/吉本ばなな』
今回も吉本ばななの旅をテーマにした小説について。
この『不倫と南米』は、主にブラジルを舞台とした短編小説集だ。
本の最後に載ってある写真や日記や旅程表がやけにリアルで、作者が本当に旅をしながら、その目で見て、触って、食べて、聴いて、これらの文の集まりに昇華していったのだなあと思うと、とても不思議な気持ちになる。
それぞれの物語は別々の話で、主人公も不倫をしていたり、お父さんの仕事にくっついてきていたり、年の離れた夫との旅行を楽しんでいる設定でここを訪れている。
けれど、そのどれもが作者の目や価値観を通して見られているからか、主人公のつぶやきにはどこかしら共通したものを感じさせる部分が多くあった。
というか、彼女の作品に登場する「私」は、なんて世の中を透き通った目で見ているのだろうといつも感心させられる。
それでいて、人間の欲望なんかをありありとむき出しにして、生身で生きている姿が何だか感動的なのだ。
これが、「ただの達観した修行僧」だったら、この話はそれほどおもしろくはない。
わかっているのに、それでも求める。それを悪いことと抑えこむのではなく、自然な流れで身を任せている。
いつもそんな主人公がカッコよくて、羨ましいなぁなんて思ったりするのだ。
なにもかもが見えてしまう、そんな高尚な「理性」
大きな存在の中にいるちっぽけな自分が紛れもなく求める「感情」。
吉本ばななは、そんな何でもない対義語をどこまでもどこまでも私たちの見えるところに持ってくる。
たくさんのことを、考えさせられる。
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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