誰だって彼と紙一重『パレード』吉田修一

パレード

人と距離を近づけるのが苦手だ。
自分の領域に入り込んでこられるのも嫌だし、その逆もしたくない。

他人に責任を持つのが怖いのだ。

そんなわたしは、「人付き合いが苦手」ということになるのかもしれない。
愛想は良い。
誰とでもすぐに、ある程度仲良くなれる。

でも、わざわざ会いたいと思う人が極端に少ない。

だから、わたしにはこの話に出てくるようなシェアハウスなんて絶対に無理だと思った。
彼らのように、他人と共同生活をするなんて、と。

けれど、ここで描かれる共同生活は違っていた。

都内の2LDKマンションに暮らす男女四人の若者たち。
ひょんなことから、一緒に住んでいる。

彼らは、「シェアハウス用」の自分を持っている。
嘘の自分ではない。
ただ、必要以上に自分をさらけ出すことをしないのだ。

それによって、この共同生活はうまくバランスが取れている。
互いの領域に踏み込まない、それゆえに気張らない関係。

みんながここに間違いなく住んでいるのに、どこか空っぽの空間。

彼らの中に、五人目の共同生活者「サトル」が仲間入りする。
これまで二人が三人、三人が四人、四人が三人、そしてまた四人と住人が入れ替わっても崩れることのなかったバランスが、ほんの少し歪む。

そして最終章。

ここで誰も予想できなかった事態が巻き起こる。
それでも住人の微妙な距離は保ち続けられる。

その事態に奇妙な感覚を覚えながら、同時に、読者はこう思う。
「ああ、誰もが、わたしでさえもが彼と紙一重なのだ」と。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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