ふんふん、ふふふ。『村上朝日堂はいほー!』村上春樹

読書

短いエッセイというのは、案外むずかしいものだ。
普段なら、あれやこれやと小さなことに目が行って、ネタなど尽きないと思うのに、いざそれを文章にしようと思うと困ることがある。

つまり、「オチがない」ということ。
オチと言っても笑いのことだけではなくて、結局その文章を通して何が言いたいのか、という小テーマのようなもののことである。

それが、わたしの思う「日記」と「エッセイ」の違いだ。

『村上朝日堂はいほー!』は、一九八三年から五年間にわたって、おもに『ハイファッション』という雑誌に連載された文章たちを集めたものである。

村上春樹氏の文章というのは、独特の「うまみ」のようなものがある。
彼自身は確固たる信念をもち、こだわりも強く、頑固なはずなのだけれど、文章に押し付けがましさというところが一切ない。
かえって回りくどい気がすることさえあるほどだ。

議論の余地が残っているから、世の中に溢れている嘘くさい断言めいた空気とも無縁である。

それでいて一風変わったものの見方をする人だから、読む方は「ふふふ」とほくそ笑んでしまうことになる。
そしてときおり、「ふんふん」と大きくうなずく。

1Q84年』『ねじまき鳥クロニクル』などの長編は、その分伝える質量も濃度も大きくなる。こちらもそれなりに腰を据えて読まなければならない。

ちょっとひと息、軽い気持ちで読みたいときは、短いエッセイがおすすめである。

故・安西水丸氏の挿絵がなんとも言えず本に丸みを加えている。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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