フィンランドが終わらない『わたしのマトカ』片桐はいり

フィンランド

他人の旅行体験を読むというのは、なんとも楽しい体験である。

自分がそこに行ったことがある場合、「このひとはこんな楽しみ方をしたんだなあ」という発見があるし、
行ったことのない土地なら、まだ知らぬ場所へ思いを馳せることができる。

いずれにせよ、自分ひとりで旅行するだけでは決して得られない豊かな土地の顔を垣間見ることができる。

旅なんて、自分の足で行かなきゃ意味がない、という人だっておられるだろう。

けれど、文章を通して旅をするということは、自分だけの五感では出会うことのなかったものや人に出会わせてくれる。

「マトカ」とは、フィンランド語で「旅」という意味なのだそうだ。
この本は、片桐はいり氏がフィンランドで『かもめ食堂』の撮影を行った際の日々を綴ったエッセイである。

かもめ食堂は、フィンランドのヘルシンキで店を開いた主人公とそこで働くことになる二人の女性、現地の人との交流を描いたほのぼの作品である。ほのぼのの中にも、人生の選択肢の広がり、自分で自分の限界を決めてしまっていることなどを気づかせてくれる。

『わたしのマトカ』は、片桐はいり氏の目線から見たフィンランド、彼女の人生との接点などを綴った小さなつぶやきの集まりからできている。

フィンランドの撮影現場、クラブ、路面電車、ファームステイの体験が、彼女のそれまでの経験と混じり合って鮮やかな色を放つ。

彼女のすごいところは、ひとつひとつの小話のオチがきちんとついているところだ。
ただの日記とよくできたエッセイの違いは、ここにあると思う。

それぞれの何気ない話の中に、伝えたいことがコンパクトにまとまっている。

フィンランドの総仕上げに、ここはひとつ、刺激も娯楽も忘れてフィンランド流の“なにもしない”を学んでこようと思った。

この言葉は、わたし自身がフィンランドの友人に言われたこととほとんど同じだ。
「あなたはここで、なにもしないってことを学ぶべきなのよ」
旅行中も仕事ばかりしていたわたしに、友人は言った。

片桐氏は、帰国してからもこの本を書くためにフィンランドのことを調べたり、現地での出来事を確認するために通訳の方とコンタクトを取り続けていたそう。
それが彼女があとがきで「フィンランドが終わらない」と言った理由である。

たった一ヶ月の「終わらない」フィンランド旅。
彼女の軽いタッチの文章によって、愉快な旅を体験させてもらった。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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