子どもにはタカラモノがつまっている『兎の眼』灰谷健次郎

学校

17年間の教師生活の後に灰谷健次郎が初めて発表した『兎の眼』。
教師の葛藤や困惑、生徒との絆のリアルな描写は、読者の共感を呼んだ。

灰谷健次郎といえば、『天の瞳』という言わずと知れた超長編がある。
こちらはどちらかというと子どもたちのほうに焦点が当てられており、彼らがだんだんとおとなになっていく過程に知らぬ間に引き込まれている。

一方で彼の最初の作品でもある『兎の眼』では、一人の新米女性教師の目線を主軸に物語が進んでいく。

何の不足もなく育ち、大学を卒業してすぐに結婚した小谷芙美。

彼女が初めて受け持ったクラスには、口をろくに聞かない問題児「鉄三」がいた。
彼の言動に初めは困惑する先生だったが、同じ「処理所」出身の子どもたちとのふれあいの中で、徐々に鉄三とも心を通わせていく。

小学校教師というのは、今の時代でも一番大変な職業のひとつであろう。

この『兎の眼』は昭和文学の代表作でありながらも、今に通ずるものがある。
教師の苦悩、子どもの繊細さ、親と教師と子どもの三角関係。

いつの時代も、「教師」という職業に求められる役割は大きく、子どもは難しい。

彼らを結びつけるのは、陳腐な言い方にはなるけれど「信頼」だと思う。

外の環境にびくびくせず、お互いをまっすぐに見つめること。
と口で言っては簡単だけれど、これが相当に難しいのだろう。

教師という存在に、改めて尊敬の念を抱かないわけにはいかない。

子どもの生き生きとした心の動き、それを見つめ、受け止め、働きかける教師の思い。
彼らを取り巻く環境。
灰谷健次郎の筆は、その世界を目の前にありありと描き出す。

読む方のわたしたちはまるで、鉄三や小谷先生がそこにいて喋っているような気持ちになるのだ。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

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