目を凝らしていなければ見逃してしまうもの『騎士団長殺し』村上春樹

村上春樹といえば、メタファーという言葉がセットでついてくる。

今回の『騎士団長殺し』は、第一部「顕れるイデア編」と第二部「遷ろうメタファー編」で構成されている。

言わば、これぞ村上作品だという特徴をそのまま持ち出した「比喩の可視化」を実現した作品とも言えるかもしれない。

これまで村上春樹氏は、作品の中であらゆることを「比喩的に」行ってきた。

比喩としての殺人。
比喩としての妊娠。
比喩としての井戸と壁抜け。
比喩としての終末。

すべては何かをあらわすものとしての「仮のあり方」であり、その奥に見つけることのできる真実のようなものの見え方は、たぶん人によって多かれ少なかれ違ってくるのだろう。

そこには見え方こそ違えど、あり方を共有した真理のようなものがあるように思える。

そして今回の作品では、その比喩の働きがいつもの作品より強い。

現実と比喩としての現実(非現実)を行き来するという彼の特徴はそのままに、現実世界の色合いが薄まってくる。
そこでは現実は、現実でなくなってくる。

物語のテンポ、展開というよりは、そこにあるものを目を凝らして見ることがわたしたち読者の仕事になる。

しっかり見ておくことだ、とそれは言う。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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