『どんぐり姉妹/吉本ばなな』
姉妹っていうのは、不思議な関係だと思いませんか?
そこには、女同士の友達だったら絶対に築けないような、そんな絆がある気がするのです。
だって私は、妹がいなかったら、この世知辛い世の中で行きていける気がしないもの。
これって、妹には重いことだよなあと思ったりもするけれど、
血の繋がりっていうのは、そういう重さをうまく薄めてくれて、ちょうどいい感じにしてくれる。
妹の一部は自分の一部であって、それでもぜんぜん違う人間だっていうのが、本当におもしろくて。
安心して。
友達という存在が、
「正面を向き合って、楽しいことを一緒にする存在」
だとしたら、
姉妹っていうのは、
「背中を守りあって、一緒に暮らす存在」
なのかもしれないね。
ふつうこういうのって、愛する男性との関係なのかもしれないけれどね。笑
関係とか、役割ってなんだろう。と思う。
おねえちゃんは、しっかりもので、世話好きで、ちょっとだけ強くて、いつも前を向いているの?
いもうとは、少しわがままで、愛されていて、平和的で、優しくて、お古を着ているの?
おとなになるにつれて、姉妹の役割がぼんやりとした。
どっちかがダメな時は、もう一方ががんばる。
どっちもダメな時は、一緒にやけ食いをする。
どっちも元気なら、結構別々に行動しているんだよなぁ。
お母さんとか、お父さんとか、
日本は特に「その人」よりも「その人との関係があるべき役割」を重視している気がする。
だから、お父さんではなく、お母さんに料理をしてもらいたいだとか、
お父さんに働いてもらいたいだとか、
そういうのがあるんだよなあ。
どうしても。
この小説では、姉妹がそれぞれの役割を務めているようで、それでいてそれぞれが「その人」で描かれている。
強く見せようとするところも、わからないことや弱い部分をさらけだすことも、
慣れ合いじゃなくて支えあうところも、
すごくリアル。
つくりものじゃないんです、って言われても、うんうんと読んでしまうよ。
強くて激しい姉と、引きこもりがちな妹が、悩める人々とメールをするというお話。
相談に乗ってあげて解決するんじゃない。
ただただ、聞いてあげる。
心をそばに寄せてあげる。
差別的な言い方を恐れないなら、これは女性にしかできない仕事だと思う。
男性はいつも答えを求めるところがあって、悩める人にはアドバイスをしようとして、
それがいつの間にか自分の考えを押し付けていたり、ただ暑苦しい人になったりする。
それに気づかない人は、「女心がわかってないなあ」と言われてしまうのだろう。
ただ目を見て、耳をそばだてて、頷いてくれれば、それだけでいい時だってあるのだ。
それが知らない人でも、救われる時ってある。
素敵な仕事だよなあ。
書いた人
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
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