軽やかで、乾いている『泣かない子供』江國香織

泣かない子供

赤い長靴』に引き続き、江國香織モードから抜け出せない。

この人の文章は、一見してとてもふわふわしているように見える。
自然体で、マイペースで、自由奔放で繊細。

けれど同時に、ものすごくきりっとしていて、太くしなやかな芯を持っている。
だから、知らないあいだに彼女の紡ぐ文章から「現実的な生きる力」みたいなものをもらっている気がするのだ。

泣かない子供』はエッセイなのだけれど、彼女の日常というのは彼女の書く小説と見分けがつかないほど、内面的である。

ぜんぜん違った性質をもった、だからこそぴたりとハマる妹との関係。

彼女は現実的なあれこれに関して妹にすっかり依存していて、妹の持つ能力(現実的適応力)を手放しで褒める。
けれど、江國自身はちっとも妹に依存したりはしていない。
残業帰りのサラリーマンの背広にくっつく綿毛のように、どこまでも自由なのだ。

大切なのはここなのだけれど、安心感の問題なのだ。いくら私でも、眠っている人間を起こして夜中におもちを焼かせたことはない。起こしたら起きてくれるのね、おもちを焼いてくれるのね、もしおもちの買い置きがなかったら、コンビニエンスストアまで買いに走ってくれるのね、と確認できることの安心感。そうして、いうまでもなくその安心感は、約束が本気だからこそ得られるものなのだ。(略)こういうばかげた信頼は、人生をとてもたのしく生きやすくすると思う。P56

それから、江國香織は恋愛体質であったようだ。
べたべたした関係ではなく、でもすっかりドライというわけもない。

世間のいう「恋愛」の基準とはまた違ったところで、人と人の関係を結んでいる。

まったく、結婚というのは残酷なことだと思う。結婚するということがどういうことかというと、いちばんなりたくない女に、いちばん好きな人の前でなってしまうということなのだ。いやになる。P132

今わたしが見ている世界と、隣にいる人の見る世界と、江國香織の見る世界はぜんぜん違う。
世界ってやつは、どこまでもどこまでも広げられるのだ、と思わされてしまう。

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