『宵山万華鏡/森見登美彦』

美しい題名と表紙に惹かれて買ったのだ。
それも、随分と前に。

京都に住む者でもそうでなくとも、一度は耳にしたことのある行事「祇園祭」。

下記はWikipediaからの引用である。

祇園祭(ぎおんまつり)は、京都市東山区の八坂神社(祇園社)の祭礼で、明治までは「祇園御霊会(御霊会)」と呼ばれた。貞観年間(9世紀)より続く。京都の夏の風物詩で、7月1日から1か月間にわたって行われる長い祭である。
祭行事は八坂神社が主催するものと、山鉾町が主催するものに大別される。一般的には山鉾町が主催する行事が「祇園祭」と認識されることが多く、その中の山鉾行事だけが重要無形民俗文化財に指定されている。山鉾町が主催する諸行事の中でもハイライトとなる山鉾行事は、山鉾が設置される時期により前祭(さきまつり)と後祭(あとまつり)の2つに分けられる。山鉾行事は「宵山」(よいやま、前夜祭の意。前祭:7月14日〜16日・後祭:7月21日〜23日)、「山鉾巡行」(前祭:7月17日・後祭:7月24日)が著名である。八坂神社主催の神事は「神輿渡御」(神幸:7月17日・還幸:7月24日)や神輿洗(7月10日・7月28日)などが著名で、「花笠連合会」が主催する花傘巡行(7月24日)も八坂神社側の行事といえる。

関西人として恥ずかしいことであるかもしれないが、私はこれまで祇園祭に行ったこともなければ行きたいと思ったこともない。
そもそも人がうじゃうじゃといるところが大の苦手なのだ。

もちろん、「宵山」という言葉だって初めて耳にした。

そんな私がこの本を読んだ。

森見登美彦の本は、彼が京都に住んでいたこともあり、京都に関する記述が多いような気がする。

太陽の塔 (新潮文庫)然り、夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)然りだ。

なんだ、名作ばかりじゃないか。

森見登美彦との出逢いは、高知の友人に教えてもらったのが最初だった。
「めっちゃいいき、読んでみ!あの人のはね〜、起承転結がない感じがいいんよ〜」とバリバリの高知弁で語ってもらったのを憶えている。
そもそも彼との出逢いが不思議だった。
仕事関係のオジサマ(それも交流会でちょろっと会っただけ)に、「◯◯ちゃんと同じ年くらいで、同年代の友達が全然おらん奴がおるんやけど、友達なったってくれん?」と言われ、
もちろん断るに断れず、
なぜか大阪城へ観光案内をした。
その時に意気投合し、彼の友達を交えて何度か飲みに行くほどの仲になったのだ。
元気かなぁ。

それからすっかり森見登美彦ワールドに魅了されることになる。
そう、つかみ所のない展開なのだが、その独特の口調と世界観に惹きこまれる。
絵がないからこそ、極彩色の物語の世界が色鮮やかに脳裏に焼き付けられる。

中でも、今回読んだ『宵山万華鏡』はピカイチだった。

同じ宵山の日を、様々な主人公の視点から描写する。
それが同じ年のことなのか、それとも違う年の宵山の日なのか。
読んでいただければわかるのだが、それが実に巧みに描かれていて、読んでいる方はまるでタイムスリップでもしたみたいにふわりふわりと宵山を漂うことになる。

そして、クライマックスに近づくにつれ、物語が集約してくる。
この集まり方がたまらない。
とにかく、たまらないのだ。

誰も彼もが夢見心地のお祭りの日。
バラバラに起こっているはずの出来事が、交じり合う。
ひとつにはならない。
交じり合うのだ。
それは、白と黒がグレーになるのではない。
全部の色が混じって黒になるのでもない。

まさに、万華鏡を覗いた時みたいに、あらゆる色が同じ場所にあって、色が交差しあって、それでも完全に溶けきることはないのと同じようだ。
そこにある完璧性は、よく出来たミステリーのようにパズルがぱちりとはまる感覚ではない。

そのぼんやりとした、闇の中の提灯のような不確かさが、この物語をより完璧にしている。

いつか、機会があったら。
宵山に行ってみたいなぁと思ってしまった。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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