なくては生きていけない職業とそうでないもの『職業としての小説家』村上春樹

職業としての小説家

世の中には、「これがなくては人間が生きていけない職業」とそうではないものがあるのだろうか。

職業とは、資本主義社会においては金銭のやり取りの発生する行為であり、自分のためではなく誰かの利益になることを行うことによってその対価を得るものと定義できるかもしれない。

その分野は多岐にわたる。
農業、漁業、医療、インフラ、出版、士業、保険、金融ゲーム産業。

時代がすすめば進むほど、ますます仕事の種類は増え、世の中は複雑になっていく。

偉大な発明により、ひとつ仕事がなくなれば、そのぶん3つくらいは仕事が増えているような気さえする。

その中のひとつの職業として、そう、「小説家」がある。

世の中にあふれるありとあらゆる仕事のうち、それがなくては人間たちが生命を続けることのできない仕事というのはどれくらいあるのだろう?

いま存在している職業は、すべて必然的に生まれたものであり、少なくとも今の時代の人々にとって必要のない職業はないのかもしれない。

しかし「小説家」とその才能は、間違いなく人類にとって必要不可欠な職業だろう。
言い方を変えるなら、「ストーリーを語り聞かせる存在」である。

確かに小説を読んでも腹は満たされない。
筋肉もつかない。

けれど、人間が人間として生まれたことのもっとも大きな意味は、「物語」にあるとわたしは信じている。

人類にとって必要不可欠な職業とは?
その見分け方はあるいは、「一定期間以上の年月において、存在してきた職業」と言えるかもしれない。

小説のようなプラクティカルな芸術は、多少の形式の変更はあるにせよ、根本的なところは変わらずあり続けるに違いない。

数多ある職業のうちの、たとえば小説家。
星の数ほどいる小説家のうちの、たとえば村上春樹。

彼の提示する生き方は、そんな具体的な存在としての、それがゆえの親しさなのだと思う。

仕事を愛する、あるいは仕事を愛したいと願うすべての人へ。

ただ僕にとってひとつ救いになるというか、少なくとも救いの可能性となるのは、僕の作品が多くの文芸批評家から嫌われ、批判されてきたという事実です。P93

つまり肉体的運動と知的作業との日常的なコンビネーションは、作家のおこなっているような種類のクリエイティブな労働には、理想的な影響を及ぼすわけです。P171

もし人間を「犬的人格」と「猫的人格」に分類するなら、僕はほぼ完全に猫的人格になると思います。「右を向け」と言われたら、つい左を向いてしまう傾向があります。P200

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ちひろ
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それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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