不完全な兄とやどかりと二十歳の私『なつのひかり』

なつのひかり

江國香織の小説の主人公は圧倒的に女の人が多く、さらにお風呂が好きな人が多い。
まだ日も暮れない頃から、あるいは朝のあかるい日の下で、バスタブにお湯をためてたっぷりと時間をかけて肌をふやかせる。

湯船の中で思考ともつかない思念を泳がせるその時間を、誰にも邪魔されないその時間を、
彼女たちは愛している。

こちらにまでほんわりとした湯気が伝わってきそうなのだ。

私には双生児のような兄がいる。
というのが、この物語の中心をなす。

兄には妻と娘がいて、
ずっと年上の愛人がいて、
それから鳥の巣のような頭をした二番目の妻がいる。

私は決して受け身な人間というわけでもないはずなのだが、どういうわけか兄を取り巻く女の人々と兄のあいだにいるのは、いつも私なのだ。
仕方がない、双子のような兄なのだから。

それから、やどかり。
やどかりはもともと隣の少年のものなのだけれど、ことあるごとに私の前に姿を見せる。

兄の妻が消え、
兄が消え、

私はフランスのようなところへ行くことになるのだ。
兄を求めて。

砂浜に自分の足あとをくっきりと残しているはずなのに、すぐに波にさらわれてしまう。
そんな物語だった。

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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