『やがて哀しき外国語/村上春樹』

生まれた国ではない、どこか別の場所で暮らすということ。

誰も彼もがする体験ではなかろう。

そこには、ある種の孤独と哀愁が漂う場合がある。

人間というものの不確かさに改めて目を向けざるをえないといった感覚。

物静かで、あまり人前に出たがらない作家は、しばしば海外へ移動する。

あえて自らの属する領域から外れ、一つ一つ針で縫い目を紡いでいくように、精神的な営みを続ける。

そこでこそ、彼の平和は守られる。

海外にいることによる不便さ、煩わしさを差し引いても、ある期間そうして違った場所に身を置くのがいいのだという。

本書は彼がアメリカのニュージャージー州プリンストンにいた時の文章である。

彼自身があとがきで記しているように、本書はヨーロッパ滞在を記した『遠い太鼓』とは一線を画する。

プリンストンの大学に属していたこともあり、もっと「その土地の生活」に入り込み、密着している。

そういう意味では思い切りフィルターのかかったアメリカ描写なのだ。

「日本もアメリカも、そう変わらないな」と思う人もいれば、
「やっぱり日本とアメリカでは世界が違う」と思う方もいるだろう。

彼のいいところは、その結論がないところにある。

たしかに彼の思想はそこにあるのだけれど、読み手に考える余地が十二分に残されているのだ。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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