『やがて哀しき外国語/村上春樹』
生まれた国ではない、どこか別の場所で暮らすということ。
誰も彼もがする体験ではなかろう。
そこには、ある種の孤独と哀愁が漂う場合がある。
人間というものの不確かさに改めて目を向けざるをえないといった感覚。
物静かで、あまり人前に出たがらない作家は、しばしば海外へ移動する。
あえて自らの属する領域から外れ、一つ一つ針で縫い目を紡いでいくように、精神的な営みを続ける。
そこでこそ、彼の平和は守られる。
海外にいることによる不便さ、煩わしさを差し引いても、ある期間そうして違った場所に身を置くのがいいのだという。
本書は彼がアメリカのニュージャージー州プリンストンにいた時の文章である。
彼自身があとがきで記しているように、本書はヨーロッパ滞在を記した『遠い太鼓』とは一線を画する。
プリンストンの大学に属していたこともあり、もっと「その土地の生活」に入り込み、密着している。
そういう意味では思い切りフィルターのかかったアメリカ描写なのだ。
「日本もアメリカも、そう変わらないな」と思う人もいれば、
「やっぱり日本とアメリカでは世界が違う」と思う方もいるだろう。
彼のいいところは、その結論がないところにある。
たしかに彼の思想はそこにあるのだけれど、読み手に考える余地が十二分に残されているのだ。
書いた人
-
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。
新しい書きもの
日々のつぶやき2021.08.06当面の間、更新をお休みします。
言葉の切れ端2021.08.03涙の存在証明[言葉の切れ端254]
言葉の切れ端2021.07.31泣いてほしくないなんて願うには[言葉の切れ端253]
言葉の切れ端2021.07.28親しい友人の死を予測すること[言葉の切れ端252]
新刊発売中!
できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。
『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍、ペーパーバック(紙の書籍でお届け。POD=プリントオンデマンドを利用)
販売価格:電子書籍450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)、ペーパーバック2,420円
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。
『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍、ペーパーバック(紙の書籍でお届け。POD=プリントオンデマンドを利用)
販売価格:電子書籍450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)、ペーパーバック2,420円