女きょうだいは健やかである。『思いわずらうことなく愉しく生きよ』江國香織

姉妹

女は入り組んでいる。

というのは、あまりに乱暴な分け方だろうか。

男の描写はたやすい。
彼らは「私はこういう人です」というプラカードを下げながら歩いてくれる。

だから彼らは愛おしく、女たちは安心するのだ。

それに比べて、女はより複雑だ。
決してそれが優れているとか劣っているとか言うわけではなく、ただ女たちは、分裂していて、自分の中に高層ビル並のフロアを有している。

彼女たちをラベリングしていく作業は、ほとんど労力の無駄遣いに等しい。
自己紹介の不確実性についても、男女間では有意な差があると思うのだ。

思いわずらうことなく愉しく生きよ』も、そんな女の登場人物に溢れている。

麻子を、「DV夫には自分しかいないのだと思い込んでいる典型的な不幸女」と評することは簡単だ。

治子を、「自分のキャリアは意志の力で切り拓くが、ダメな男に引っかかるタイプ」
育子を、「天真爛漫に見えるが実は一番現実的な三女」とカテゴライズすることもできる。

けれど、彼女たちはとうていその言葉に収まらない。
文庫本にして389ページのほとんどすべてを使って、それ以上長く説明することも短くまとめることもできず、彼女たちはそこに居る。

「思いわずらうことなく愉しく生きよ」というのは、彼女たちの家の家訓だ。

ああ、江國香織という人は、この複雑にして怪奇な女たちを、これほどに鮮やかに見事に描きあげてしまうのだ。
現実の女を眺めるよりも、彼女の本を読むほうが、女の本質が見えてしまう。

丸裸になりたい女たちは、うまく説明はできないけれどわかってもらいたいと望む女たちは、江國さんの本を読みなさい。

それにしても男たちというのは、なぜあんなにも説明を求めてくるのだろう。
「どうして悲しんでいるの」
「何が気に入らないの」
「黙ってないで話してくれないとわからないよ」

まったく、なんにもわかっていやしない。

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
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