海外に移住するかしないかを決めてしまう前に『遠い太鼓』村上春樹

ぶどう畑

わたしは「海外で暮らしたい」という思いが強くある。

理由はさまざまだけれど、
「日本は窮屈だ」と感じる瞬間が、ほんとうに多い。

もちろん、ただの現実逃避的な思考かもしれない。
海外でうまくやっていくことなんて、できないかもしれない。
行ったら行ったで、失望のほうが多いかもしれない。

けれど、引きこもり傾向にあるわたしと今でもやり取りのある二人の友人はどちらもヨーロッパの人だし、
彼女たちは口を揃えて言う。

「あなたは日本で暮らすのはしんどいだろうね」と。

家族は好きだ。
彼らは「とても普通の」、「とてもいい人たち」。

そしてわたしは、そこの枠を飛び出さない限り、日本でうまくやっていけるだろう。

そして時折思うのだ。
「ああ、息がしたい」と。

家族の元を離れて一人で暮らし始めて、もう二度と家族と一緒に暮らせないかもしれないと思う。
ひとり屋根の下、ここではわたしは呼吸ができるからだ。

一人暮らしを始めてから、家族との関係が良好になった。

日本にいる限り、家族や、日本の会社との関係を絶つことはできない。

わたしは天秤にかけてみる。
「日本で感じる孤独と、海外で感じる孤独とでは、どちらが耐えられるだろう」と。

そして気がつくのだ。
「いけない。もっと積極的な理由で、日本なり海外なりで暮らさなくては。そうでないと、どこに行ってもうまく呼吸なんてできるはずがない」

外野の雑音を離れて海外に飛び立ってしまう前に、「期間限定」で海外暮らしをするというのはどうだろう。

村上春樹は、あるときヨーロッパへ飛んだ。
静かに、じっくりと小説に集中するためだ。

彼はもともと孤独をそれほど苦とはしないタイプのようだし、奥さんを伴って行っていたから、それなりに精神的な負担は少なかったかもしれない。

それでも、それらを差っ引いても余りあるだけの「面倒」が次々に巻き起こる。

住居の確保、盗難、交通事情、郵便制度、気候。
日本ではおおよそ考えがたい面倒事に対処しなくてはならない。

こんなとき、「異国人」であるということはなんと弱い立場に立たされることか。

それでも彼は小説を書き、
とびきりのワインを飲み、
車で旅行をした。

海外に何年間か住むだけでも、それなりの妥協と覚悟がいるのだ。
決して「楽ができる」と思ってはいけない。

海外で仕事を見つけるのは至難の業だし、
日本の仕事を海外でするというのは恐ろしく孤独なことだ。
金が有り余っているのなら、正直に言って日本ほど暮らしやすいところは地球上にないだろう。

さて、それでも海外に住みたいだろうか?
それとも旅行記でも読んで、また日常に戻ることにしようか?

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

新刊発売中!

できることなら、十四歳という年齢はすっとばしてしまえるのがいい。
冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

『レモンドロップの形をした長い前置き』
著者:田中千尋
販売形態:電子書籍のみ
販売価格:450円(※Kindle Unlimitedをご利用の方は無料で読めます)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。