完璧な愛と完璧なわがまま『ノルウェイの森』村上春樹

ノルウェイの森

「希望」だとか、
将来、正論、正義、夢、まっとうな人生だとか、
恒例行事、人間関係、栄養バランスの摂れた食事、純粋な男女の付き合いだとか。
にっこり微笑んで、「ありがとうございます!」と言うことだとか。

そういった類のことから、うんと距離をとりたくなることがある。

なにもかも壊してしまいたい衝動と、そうするだけのエネルギーが自分の中にないことに気がついたときの、やるせなさ。

そんなときに読みたくなる本たち。
『ノルウェイの森』は間違いなくそんな本のひとつだ。

いつも感じること。
それは「まっとうな人間と、狂った人間の分け方なんて、いつ何時くるっとひっくり返ってしまうかもしれないのだ」ということ。

精神を病んだ人たちが集まる療養所に、「僕」の「おそらく恋人」がいる。
その療養所に住む女性「レイコさん」の言葉を借りると、こういうことになる。

「私たちがまともな点は」とレイコさんは言った。
「自分たちがまともじゃないってわかっていることよね」P6

自分がいくぶん世間からズレた人間であることを自覚している人間がいるとする。
その場合、彼/彼女はおそらく、ごく普通の人間である場合が多いのだ。

みんな、狂っているのだ。

社会の中に組み込まれているから気が付かないだけで、
わたしたちはみんな例外なく、頭のネジがぶっとんでいる。

だからさ、とわたしは思う。

「どうすれば世間に認めてもらえるか、受け容れてもらえるか」なんて考えるより先に、
ごく普通の人間に生まれた退屈さと幸せを満喫するのがいいんだよ。

そうすれば、143ページで緑ちゃんが滔々と語っている「完璧な愛と完璧なわがまま」のことが、少しは理解できるはずだから。

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ことば、文字、文章。 それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。 文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。 そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。 私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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