十八歳というのは恐ろしい年齢である。『ムーン・パレス』ポール・オースター

ネオン

ポール・オースターという人の作品は、いわゆる海外文学の中で、どちらかというと「即物的」な部類に入る方ではないかと思う。
それでいて、起こった事実を忠実に書き留めている無個性的なところはまるでなく、ポール・オースターはポール・オースターらしく存在感を放っている。

彼の文章はいわば、しっかりとしたストーリー性を持った純文学と言えるかもしれない。

自分が十代の頃に好きだった日本の作家たちが書いていたような、どきどきする起承転結。
日本独特のねっとりした感じがつらくなってきて読むのをやめてしまった類の物語。

その駆け抜けた感じの読後感は残しつつも、ポール・オースターの文章は風通しが良い。

押し付けがましい一般論は、そこにはない。
それはあるいは、彼が海外の人だからなのかもしれない。

『ムーン・パレス』は、彼の主だった作品としては6作目になるわけだけれど、そこにはまるで処女作のような若々しさがある。
青年の憤り、戸惑い、無力、恋。
人生への意味追求。

それらがぎゅっと詰まった本作品に感じ入るところがあるかどうかは、わたしたちの若さを測るバロメーターになるかもしれない。

十八歳というのは恐ろしい年齢である。自分はクラスメートの誰よりも大人なんだ、と僕はわけもなく確信してふるまっていたが、実のところはただ、若くあることの別の方法を見出していたにすぎなかった。P33

僕にはそれまで、何ごとも一般化してしまう癖があった。物同士の差異よりも、類似のほうに目が行きがちだった。P212

主人公は、彼自身の境遇、そこにある程度起因する死生観、絶望や堕落からの救出、恋、そんなありふれた経験を経て、
少年期から青年期を過ごしてゆく。
それらはもちろん本人にとっては、唯一無二のドラマティックな経験なのだけれど。

そこにはまだ、本当の絶望なんて存在しないのかもしれない。

あまりにも大きな絶望、あまりに圧倒的で、すべてが崩れ落ちてしまうほどの絶望、そういうものを前にしたとき、人はそれによって解放されるしかないんだよ。それしか選択はないんだ。さもなきゃ、こそこそ隅っこに這っていって、死んじまうしかない。P257

このまま進歩が続けば人類は破滅だよ、それくらいどんな阿呆にだってわかるさ。P259

自分にはこの世界で生きる価値がないのか。
それとも、この世界には自分が生きるだけの価値がないのか。
いずれにせよ、死に方というのは、あるいは自分が生まれるときと同じくらい選択不可能なのかもしれない。

死ぬだけの勇気がないのなら、せめて自由な人間として生きることにしよう、そう思った。P416

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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