あなた方人類に、いったい何ができるのか『私の恋人』上田岳弘

小説家たちは、今まさに起きていることや未来に起こりうることをありありと描いてきた。
わたしたちが言葉まで昇華できない事象を、彼らは言葉にしてきた。

真実を言い表す言葉にしてきた。

仮に我々人類がこのあたりで自らの種がたどった歴史をまとめておくとしたら、その適任は上田岳弘を除いていない。

彼は間違いなく、この平和ボケしたつまらない日本文学界におけるほとんど唯一の希望となる。

彼が処女作で「書くこと」をやめなくてほんとうに良かったと思う。
そう思うほど、一作一作に人類のすべてがこめられているのだ。

「人類は今三周目にいる」

アボリジニの格好をして私の恋人の前に現れた男は言う。
彼は人類の一周目の旅を終え、その行き止まりをたどり、二周目で私の恋人に出会い、その行き止まりを最後までたどる前に絶命する。

私はすべてがわかっているのに、何もすることができない。
「あなた方人類」は何もできないのだ。

10万年前の記憶と複雑な思考能力を持つ主人公の切なさと、「私の恋人」への想いが交錯する。

この作品は以前にも感想文を書いている。

人類の運命は10万年前から決まっていたのかもしれない『私の恋人』上田岳弘

書いた人

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
そんな文字の持つ力に心躍る方がいたら、ぜひ友達になってください。
私はそんな友達を見つけるために、物書きをしているのです。

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冬に元気をなくす母親と、影の薄い善良なフィンランド人の父親を持ち、ぼくは彼らの経営する瀬戸内市の小さなリゾートホテルで暮らしていた。ある時なんの前触れもなしに、ぼくにとって唯一の友達であったソウタが姿を消した。学校に行くことをやめ、代わり映えのしない平穏な日々を過ごすぼくの生活に、少しずつ影が落ちはじめる。

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