孤独な衛星としてのわたしたち『スプートニクの恋人』村上春樹

われわれはいくつもに分断されている。

性欲を感じながら、恋をしながら、誰かを必要としながら、その対象がみんな違っていることだってある。

自分自身でさえも、自分自身から切り離されている。

それは、いつか打ち上げられたまま戻ってこなかった衛星のように、静かに、誰にも見つけられない場所で規則正しく回っている。

そこには加速度がない代わりに摩擦もないから、最初に決められた軌道でぐるぐると回るしかないのだ。たぶん永遠に。

わたしたちの命が永遠ではないのは、歓迎すべきことなのだろう。

たぶん、いろんなことを諦めるほうがものごとはうまく運ぶのだ。

わたしたちは、世界が愛と希望に満ちているから生まれてきたのではなく、特に理由もなく押し出されただけなのだ。

だからこの世界には、わたしたちが快適に感じる心くばりは行き届いていない。

わたしたちは素敵な旅の連れであったけれど、結局はそれぞれの軌道を描く孤独な金属の塊に過ぎなかったんだって。遠くから見ると、それは流星のように美しく見える。でも実際のわたしたちは、ひとりずつそこに閉じ込められたまま、どこにも行くことのできない囚人のようなものに過ぎない。P179

できれば夢のなかにとどまっていたいと思う。
現実は、わたしたちをより孤独にする。

夢の中ではあなたはものを見分ける必要がない。ぜんぜん、ない。そもそもの最初からそこには境界線というものが存在しないからだ。だから夢の中では衝突はほとんど起こらないし、もし仮に起こってもそこには痛みはない。でも現実は違う。現実は噛みつく。現実、現実。P205

寂しさを埋めようとする。
たとえ決して埋まらないと知っていても、人の温もりを求めないわけにはいかないから。

そもそものはじめから、負け戦なのだ。

「正しいことって、いったいどんなことなの? 教えてくれる? 正直なところ、なにが正しいことなのかわたしにはよくわからないのよ。正しくないことがどんなことか、それはわかるわ。でも正しいことって何?」

それについても、ぼくにはうまく答えられなかった。P302

↓以前の読書感想文

投稿者プロフィール

ちひろ
ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。

文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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