競争から距離を置く勇気と覚悟のこと『古くてあたらしい仕事』島田潤一郎

世界はよくなっているのか、悪くなっているのか?
このように問われたら、このところのわたしの答えは後者だ。
皆が汗水たらして進めている世界は、悪くなっている。
だからわたしは怒っていた。そして自分の無力にもっと怒っていた。
さらに悪いことに、わたしはただ生きているだけで「それ」に加担しているのだった。
そのようなとき、なんとなく眺めていたインターネットで島田潤一郎さんのことを知った。
もう記憶があやふやになってしまったのだけれど、そのとき島田さんはこんなことをおっしゃっておられた。
ぼくは競争社会からできるだけ距離を置いて生きていきたい。
そして、島田さんはひとりで出版社をはじめた。
競争社会から距離を置く、置くことのできる生き方というのは、わたしにとって衝撃的だった。
今の社会のあり方、進む方向に違和感を感じていても、何もできないと思っていたからだ。
だから、社会に自分の時間と魂を少しだけ売って、それで食べるものと住むところをもらう「取引」をしなくてはならないと思っていた。
仕事を楽しんでいる人たちは、たまたま世の中で仕事として成立する営みと自分の興味関心が一致した、ラッキーな人たちだと思っていた。(もちろん努力もあるだろうけれど、事業性のない営みというのはどうしてもある)
島田さんは、自分のつくりたいもの、買いたいと思う本をつくる。
それが世の中で必要とされているかどうかを毎日のようにたしかめる。
売るのではない。
必要とされるのだ。
それが島田さんの考える仕事だった。
まだ新しい本なので、あまり本文を引用することは控える。
ただ、わたしたちはそろそろ「安いものや便利なものに飛びついて買わされる」ことをよくよく考え直したほうがいいのかもしれない。
応援しているお店でお金を払い、取り寄せられるものはその店にお願いして、商品が到着するのをのんびりと待つ。お金をどこに使うかによって、その町の景色は少しずつ変わっていく。P194
お金は効率よく自分のほしいものを手に入れるための道具であるという一面もある。
しかしお金の使いみちを自分で決めると、お金は心を運んでくれる。
わたしたちは、ほうっておくとどんどん楽な方向に流れてしまう。
おじいさんやおばあさんの(たった二世代前だ)頃と違って、ただ生きていくためにひたすらに働く時代は終わった。
単純な比較は無意味かもしれない。
だからこそ、チャンスなのだ。
やっとわたしたちは、理想を現実にするチャンスを手に入れたのだ。
自分の限りない欲望に、自分自身を消耗させている場合ではない。
わたしはこの島田さんという人を応援する。
彼が妥協のない本をつくる限り。
良い本がなくなってしまうと生きていけなくなってしまう自分自身のために。
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ことば、文字、文章。
それはとても恐ろしいものでもあり、うんと心強い味方でもある。
文字はマンガに劣り、写真は動画に劣ると言われる時代で、文字の集積だけがもたらしてくれる「情報」以上の無限の想像のための余白。
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